うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

自分の性質が望まない方向へ傾いた時のために、手元に残している特選書籍10

先日、わたしが貸した中勘助の「犬」を読んだという人と一緒に食事をしていたときに、こんな話をしました。
その人は本を手にしながら「あまりのインパクトでもうこの(物体の)存在自体が怖くて」と話されていて、わたしは「だからこれはいつでも開けるように、手元に残しているんです」と返答したら驚かれました。

 

心にはコンディションがあるので、表面的には抑制できても内面は乱れと再構築の繰り返し。乱れるときの心のはたらきはバガヴァッド・ギーターのなかでたった4行で表現されているのですが(これです)、まさにあのメカニズムに陥った時のために、わたしは心理描写の面で強く印象に残った本を手元に置くようにしています。
「あ、わたしまた、こうなりそう。でももうこれは繰り返したくない」というふうに、その思考の流れから抜け出すために、そこから折り返すために、本の力を借りています。客観的に自分の狂いを確認するのに、わたしにとって読書はとてもよい方法。音や過剰演出で煽られることもないし、慰められたりすり寄られたりもしない。ひとりで自分と向き合えます。

 

わたしはこのたびのパンデミックが起こるまで自分なりに考えた形式で読書会を毎年数回開催していたのですが、あの時間が楽しかったのは、そのまえに各自がひとりでそれに向き合う時間という土台があったからであるなとあらためて思います。

現代社会での暮らしは各自が複数の環境と関わりを持ち、いくつもの役割・顔をもっている。そんなバラバラの背景を持った者同士がいちど同じテキストを使って自分の中に潜って、ぷはーっとその潜水から出てきて話すからこそ、心を使った対話が成立する。日々の会話をどこかから借りて来たテンプレートや引用のリミックスで済ませることで失っていく、心の筋力の回復。そういう効果を狙っていました。

 

わたしはいまも毎日、「借り物の会話」をしないように気をつけながら過ごしています。読書は心の筋トレであるなぁと思いながら過ごしています。

今日選ぶ本のなかには、過去に読書会で使用したものが3冊含まれています。「自分の性質が望まない方向へ傾いた時のために手元に残している10冊」というテーマで選んだ中に、かつての読書会の課題図書が多く含まれたのは、その読書会をわたしがヨガの練習の一部として組み立てていたからなんですよね…。

前置きが長くなりました。以下に10冊並べます。

 

1.バガヴァッド・ギーター

これは冒頭に書いた通りです。いくつかの節は覚えていて、「これは〇章の〇〇節で説かれていることだったなぁ」というふうに心の中で参照します。
スマホにアプリも入れていますが、写経のように書き写しもします。わたしが過去に読んだものは以下にまとめています。

 

 

2.ガンジー自伝/マハトマ・ガンジー(マハートマ・ガーンディー)

ガンジー自伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)

ガンジー自伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)

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長いので読むのがなかなか大変ではあるのですが、かつての自身の残酷さや愚かさを自ら振り返って書くガンジーの本気っぷりに驚いて手放せなくなりました。妻に対する仕打ちのひどさを自分でここまで書けてしまうのがすごい。黒歴史ばっかり。自分はインド人なのにバガヴァッド・ギーターを本気で読むようになったのは外国へ行ってからであるとを話していた人が、ギーターを自分のものにしていく濃厚な数十年のことが書かれています。
かっこいいとか悪いとか、そういう価値観はあくまで外からのものであることを、ありありと見せつけてくれます。

 

 

3.シッダールタ/ヘルマン・ヘッセ

シッダールタ (新潮文庫)

シッダールタ (新潮文庫)

  • 作者:ヘッセ
  • 発売日: 1959/05/04
  • メディア: 文庫

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シッダールタ(草思社文庫)岡田朝雄 訳

シッダルタ(岩波文庫)手塚富雄 訳

シッダールタ(新潮文庫)高橋健二 訳

ヘルマン・ヘッセはドイツの作家。「デミアン」「シッダールタ」の二つしか読んだことがないのですが、いずれも一冊読んだらすべての日本語訳を読みたくなり、三冊ずつ読みました。こんな読み方をしたくなった本はバガヴァッド・ギーター以来です。
シッダールタは題名からしてインドのお話ですが、対人関係によって変化して行く人生と心と業を描く物語。テーマはカルマであると理解しています。そしてそのエネルギー源であるエゴについて「あの人物との関係におけるシッダールタ」というふうに振り返ることができるところがとてもよくできていて、回想しやすい物語です。
はじめての人には草思社文庫の本をおすすめしていますが、どの訳もそれぞれ、エゴの彩度が場面ごとに微妙に違って見えるのがよいです。(この読み比べは読書の醍醐味!)

 

 

4.提婆達多(でーばだった)/中勘助

提婆達多(でーばだった) (岩波文庫 緑 51-5)

提婆達多(でーばだった) (岩波文庫 緑 51-5)

  • 作者:中 勘助
  • 発売日: 1985/04/16
  • メディア: 文庫

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仏教では我執というニュアンスになるアハンカーラが緻密に書かれていて、思わず二度読み、三度読みする描写がたくさんあります。これは嫉妬というより怨念じゃないかと思うような、そんなギリギリのところまで何度も行く主人公にどうにも引きつけられます。
自分がゼロから欲しいと思ったのではなく、身近だと思っている人がそれを得たから自分も欲しいと思うようになる。そういう言語化しにくい感情を少し離れて見ることができます。
他人をどこまでコントロールできるかを試すことで自分の存在を確認する幼稚なマインドも掘り下げてられているので、自分のやっていることって…と気づいてしまう瞬間がつらい人には、それを乗り越える友のように感じられるかもしれません。

 

 

5.仏教は心の科学/アルボムッレ・スマナサーラ

仏教は心の科学  (宝島社文庫)

仏教は心の科学 (宝島社文庫)

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冒頭で今回このような視点で本のピックアップをしてみようと思ったきっかけになった本として「犬」をあげましたが、選定時のわたしのフィルタは「欲と偽善と内面の誤魔化しについて、ひとりで向き合う時間を助けてくれるかどうか」です。
自分が内面で行っている苦しみの正当化思考はストックホルム症候群じゃないだろうか…ともうひとつの観点から自己を振り返る瞬間というのは、なかなかどうにもつらい時間です。なにごとも「修行」という言い方をすれば、世間との摩擦の苦しみに向き合う思考を棚上げすることができてしまうから。
この「仏教は心の科学」は、そんな「棚上げしたい心」を少しずつ解きほぐしてくれます。

 

 

6.アルジャーノンに花束をダニエル・キイス

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わたしは進めたいことが順調なときほど隠そうとする、いつの間にかそういう人間になっていますが、それはこれまでの人生の中で「自然に」会得した処世術。40代にもなればそういう考えをする人が自然に増えると思いますが、いまの時代はSNSで誰とでもつながりやすいので、20代でなにか自分のプロジェクトをコツコツ主体的に進めている人も同じだろうと思います。
アルジャーノンに花束を」はヒットした時も再ヒットした時も再々ヒットした時も読んでおらず、2017年にはじめて読みました。いわゆるこういう感じの本を「よくある感動の物語なんでしょ」と1ページも読まずに斜に構える人間でした。それをしなくなったのはこの本がきっかけです。そういう意味で、わたしを更生に向かわせてくれた本です。

 

 

7.嵐のピクニック/本谷有希子

嵐のピクニック (講談社文庫)

嵐のピクニック (講談社文庫)

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小説の短編集です。わたしは「させていただく」が短いセンテンスの中に2回以上入る話し方をされると頭がフリーズするので、「媚び」はここまで進化していますよと教えてくれる演習ドリルのようなこの本が手放せません。
表明したら被害者側がやり玉にあげられそうな価値観、弱い立場側だからこそこっそり行使できてしまう残酷さ、それに共鳴するかのように小さく狂う双方の心…、狂わない堅牢な魂。こういう複雑さがいろんな視点で書かれているので、そんなに頻繁ではないけれどもたまに起こる「ちょっとなにこれ・・・、どうすればいいんだっけ?」と混乱する、処理できないときに「こういうパターンもある」と、思考のキャパシティを拡げてくれます。

 

 

8.すべて真夜中の恋人たち/川上未映子

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

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言語化できないむかつきをハッキリ語る人を見て、はてと自己を振り返る。この小説の序盤で展開される、石川聖という人物による「スピリチュアル斬り」の語りに毎回引き込まれます。
わたしは本格的なヨーガを行じている人から見たら薄っぺらいヨガをしている「残念な人」なのだろうという感覚を持っているので、気おくれするマインドにからめとられたときのためにこの本を手元に置いています。

 

 

9.夢を売る男/百田尚樹

夢を売る男 (幻冬舎文庫)

夢を売る男 (幻冬舎文庫)

  • 作者:百田 尚樹
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: 文庫

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野望の持ち方がすべてあてこすり、という人が次から次へと出てきます。まっすぐじゃないんだけど、一生懸命。そういう意味で内容の性質が「提婆達多」と似ています。設定はまったく別の話ですが、社会に対する怨念について考えるきっかけをくれます。登場人物のなかでも、将来スティーブ・ジョブズのような男になるという夢を持つ25歳・フリーターの青年と、幼稚園児の子供が都内の難関私立小学校に合格するのと同時に出版するのを目標にしている主婦、この二人の心理描写だけでも手元に置いておきたくて手放せません。

自分のメンタルが漠然とヤバいと感じるときに、こういう直接的な描写を読むとヨガの練習や瞑想の重要性を再確認できます。誇大妄想がテーマの小説なので、マーヤーやモーハーの中にいるとはどういうことかを客観視できます。

 

 

10. 春にして君を離れ/アガサ・クリスティ

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選んだ理由は「夢を売る男」と同じです。え、でも百田尚樹ってああいう本を出す人でしょ、とか思っちゃって読みたくない人向けにアガサ・クリスティでも出しとこかと。ああ見抜かれてると思った人は両方読んでみてください。

 

 

以上、10冊(10タイトル)でした。

あなたの家の本棚とマッチしたものはありましたでしょうか。

 

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