うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

うるさいこの音の全部 高瀬隼子 著

「言いたいのではなくて、書きたいのだ。わたしからこの手段を奪えると思うな」というのが小説家の表現の自由なのに、芥川賞を受賞すると身近な人がいろんな方法でその手段を "復讐ではない" ことにしようとしてくる。

さらにその状況に対して著者が応酬している。そこに怯まない作家のスタンスがいい。小説という形式の存在意義を感じながら読んだ。

 

受賞から半年しか自分は旬じゃないと認識しているから、故郷の学校の先生が東京にわざわざクレームをつけにきてもへっちゃらみたいな状況って、なんかわかる。すんごいわかる。実際同じ経験があるわけでもないのに、なんでわかる気がするのだろう。

そしてその先生の言う「書かれたものは負けるしかない」というのも、その人にとっては事実だろう。流れ弾がかすった程度なのに弾が真ん中に当たったと捉えている。その思考をあぶり出す方法が絶妙で、狂いやすい距離感を煙に巻く技術を持った人だけが作家になれる。

 

今回はたまたま勝ったのだというのがこちらの言い分で、そのたまたまにも期限があるのだからここは負けてもらおう、みたいなパワーバランスの瞬間って、生きているといろんな段階で起こる。この世を生き残り戦争の世界と捉えればそうなるけれど、外から読むぶんには気楽でカタルシスになる。

 

「そう思っていま作家をやっています」という状態をそのまま書く方法として、おもしろい設定の小説だった。