うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ブッダの生涯<仏典をよむ1> 中村元(著)前田專學(監修)

1985年にNHKラジオでお話しされた内容の書籍化。テキストで読めます。

説明に気取りがなくて、「仏法は遠い世界の話ではない。心の話なのだから、身近に感じてなんぼだ」という信条のようなものが感じられる、そんな語り口。ブッダという人物自体が同じことをいろんな言い方で話したのだから、そういうふうに存在しようとしていたのだから、仏法を伝えるという行為はそうあるべきだと思っているのかな。そんなふうに思いながら読み進めました。


この時代のインドの暮らし、地理条件などの解説もさっとわかりやすく差し込まれます。この「ちょっとした説明」が大きく理解を助けてくれる。ご自身の旅行のエピソードをちょこっと話しながら、こんな解説をされています。

そういうこともあるぐらいですから、旅というのは容易じゃない。ことに、インドないし南アジアは日本よりははるかに広いですから、そういう旅におきましては、道づれというものはまことにありがたく、人々が乏しき中からわかち与えるということがなによりもありがたいことなのです。
(第4回 生きる心がまえ わかち与える功徳 より)

わたしは豊かさと貧しさの境界がわからないくらいぬるま湯で生きてきたけれど、こういうふうに話してもらえると罪悪感なく話に入っていけるんですよね…。

 

中村元先生のトークはもとの言葉の意味も含めて説明をされるので、いつのまにか刷り込まれている概念をいったん剥がして、そこから日常に落とし込むことができます。

世間にはいろいろ美麗なものがありますが、それが欲望の対象なのではなく、むしろ欲望とは人間の内にある思いと欲情である。「思慮ある人々」は「欲望を制してみちびくのである」、この「思慮ある人々」はもとのパーリ語の原文ではドゥヒーラ(dhira)という言葉です。これはいまのインドでは、「自動車を気をつけて運転せよ」というようなときの「気をつける」というのに、ドゥヒーラを使っております。自動車を気をつけて運転しなければならないように、実際社会に対処していくにはつねに気をつけている必要がある、というのです。
(第4回 生きる心がまえ 無一物の境地 より)

この先生の説明が格別なのは、こういうところ!

 

ダルマとカルマを理解しようとするときの助けになる、以下の説明も付箋を貼りました。

 この「この世で自らを島とし、自らをたよりとして、他人をたよりとせず、法を島とし、法をよりどころとして、他のものをよりどころとせずにあれ」というのは、とくに有名な文句です。つまり要点は、世に生きていくのになにを頼ったらいいのかというとき、「自己に頼れ」「他のものに目が眩んではいけない」というのです。

 では、自己に頼るというのはどういうことであるか。それは人間のなすべきことの理(ことわり)、実践すべき理法というものがあり、それにしたがって行動することなのです。他のものに目をくれてはいけない。ただ世間をながめて見て、「ああ、どっちが有利かな、景気がよさそうかな」と思ってフラフラしているというのではなくて、人間であるかぎりは「こうすべきである」というしっかりとした反省、それにもとづいて行動せよよというのです。
(第5回 ブッダ最後の旅 「自らに頼れ」という教え より)

ここでも元になっている言葉の説明があって、「島」は漢訳で「州」になっているものもあり、インドの洪水の規模になると「州」も「島」かとイメージできる、そういう補足がされていました。
島の王様になること、島をつくることをイメージすると、逆の理解を導きます。こういうことって、個人単位では実はけっこう起きていると思うんですよね…。確認してないだけで。わたしはこういう解釈違いをやりがちなので、こういう補足に大きなやさしさを感じます。

 


以下は序盤で出てきた解説だったのですが、あらためて読むと、中村元先生もこれを実践されようとしている。

スッタニパータ 「第一1/蛇の章」八節「慈しみ」

究極の理想に通じた人が、この平安の境地に達してなすべきことは、次のとおりである。能力あり、直(なお)く、正しく、ことばやさしく、柔和で、思い上がることのない者であらねばならぬ。

足ることを知り、わずかの食物で暮らし、雑務少なく、生活もまた簡素であり、諸々の感官が静まり、聡明で高ぶることなく、諸々の[ひとの]家で貪ることがない。

【143~144】
(第2回 ブッダのことば 慈しみの心 より)

「ことばやさしく」のところが特に。

 


ブッダの生涯よりも中村元先生の生涯を追っかけているような感想になりましたが、実際ちょっとだけ追っかけたことがあります。

この本は、そのときの追っかけ仲間からのいただきもの。

ずっと寝かせていたのだけど、いまはこういう本を積極的に読みたい。仏教やインド思想の本を多く読んでいます。なんとか狂わずに乗り越えよう、整えていこう、という気分。

中村元先生の言葉は音声や映像よりも、文字で読んで自分で脳内再生するほうが好きです。

 

ブッダの生涯 (岩波現代文庫 〈仏典をよむ〉)

ブッダの生涯 (岩波現代文庫 〈仏典をよむ〉)

  • 作者:中村 元
  • 発売日: 2017/12/16
  • メディア: 文庫
ブッダの生涯 (仏典をよむ 1)

ブッダの生涯 (仏典をよむ 1)

  • 作者:中村 元
  • 発売日: 2001/03/05
  • メディア: 単行本