ちょっと読み始めたら芋づる式に短編を摂取し続けてしまう林芙美子フェスが、また唐突にはじまりました。ここのところ毎晩開催中です。
お風呂に入る前に、ついついダウンロードして読んでしまう。ブログに既読のものを記録していてよかった。フーミンは多作なのでねー。
直近ではこの6つを読みました。
濡れた葦
子は鎹(かすがい)で、親権についてあれこれ考える以前にすっかり心が片付いてしまう奥様のお話。行動することは生きること。あっぱれな話だった。
朝夕
なんか嫌な予感がするな……と思ったら、やっぱり。絶対復縁しちゃダメなやつ。
ビジネスの斜陽に暴力×共依存の話が絡み、和洋折衷な感じが脳内映像をオシャレに展開させる。「ミツマメホール」とか、差し色のように入るカタカナの使い方が絶妙すぎて、文字列にファッションセンスを感じる。
就職
「木綿のハンカチーフ」という歌に出てくる女性がもう少しヤバい状態みたいな話なのだけど、海の描写があるだけで明るく感じた。この時代の大学生男子の堅実さは、いまの感覚だとキラキラして見える。
多摩川
自分を頼ってしなだれかかってくる女性の様子を冷静に観察しながら、許容範囲で楽しむ男性の視点がおもしろい。自分が特別必要とされているわけでもないことを自覚している冷静な視点がすごくいい。かしこい人の話だった。
夜福
後半がまさかの展開でびっくり。離婚した両親に子供が気をつかって立ち回るエグさは『泣虫小僧』を一瞬思い出させる。こういう子供の現実視点はエーリヒ・ケストナーの作品に似ているけれど、めちゃくちゃ日本的。
おばあさんの様子や振る舞いの描写がいちいち脳内で映像化しやすくて、動的人物デッサンがすごい。日本語が母語であることの楽しさを存分に感じられる。
こことか、たまりません。
↓
おばあさんは、巾着のやうにすぼまつた唇をもぐもぐさしてゐる。鼻が小さくて何時も笑つてゐるやうなおばあさんの表情は、久江にとつては豐年の稻穗を見てゐるやうに平和な氣持だつた。
淪落
ただ生きていくためにパパ活が必要な18歳の女の子の話で、最初の相手は40歳。その男が「田舎の娘は老けて見えるね」などと言っていて、腹を蹴ったり髪の毛を切られるDVもあり、いきなり地獄。だけどそれがデフォルトの設定なので、なんともあっけらかんとしている。
お金はありつたけ使つてしまうので相変らず貧乏だつたけれど、何か食べたい時は、みず知らずのひとがおごつてくれた。
パパ活の話なのでね。
そしてこの女の子はたくましく日々を重ねていく。
昼間は、まるで艶気のない、陽蔭の草のようなわたしたちも、夜になると、やつと息を吹きかえして来る。楽屋では、お菓子のようにホルモン剤をのんでいる女もいる。
つおい。
『リラの女達』や『晩菊』のような話が好きな人には、これも楽しめるんじゃないかな。魂が汚れていく感じを自覚しつつ、自尊心を質に入れたような日々のやりくりで流されていく描写が毎度のことながら絶妙です。
そこに高尚な思想なんかなくたって書けますよーんと言わんばかりの短編の数々。どの作品も話をダラダラ続けない圧倒的なキレとうまさが炸裂していて、すごくいい。
長編の『放浪記』や『浮雲』はド級の名作だけど、短編のセンスも大好き。
くうぅ〜、うまいわ〜と毎晩うなっています。