うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

泣虫小僧  林芙美子 著

母親と一緒に居たいのに、自分が邪魔者であることが明らかに示された子どもの話。とにかくつらい。そら泣くわ!
男を追いかけて育児放棄をしたくなったシングルマザーとその子ども、母の姉妹とその夫。この育児放棄はただのネグレクトを超えたメス(雌)の都合で、母はかなり無理な調整であってもとにかく行きたい。
大人からあまりにはっきり邪魔者扱いされたその子は、根本から立ち上がる生存欲求で周囲の大人に対して営業的な態度をとる。かなり過酷。

子どもが営業活動に失敗してしまう場面では、わたし自身の過去の失敗体験(やべ!ここは媚びておくところだった!という後悔)がフラッシュバックして、しんどい読書でした。

 

この小説は一筋縄ではいかず、子どもの過酷さだけでなく大人の暮らしを描きます。
母は四姉妹の長女で、それぞれが別の生き方をしています。子どもの相手をしてくれるのは結婚している妹の夫と、独身の妹。末妹の夫婦はお金に困っていて、行き当たりばったりなところが長女と似ている。それぞれを取り巻く環境が微妙に違っていて、独身の三女はしがらみから解放されたモダンな生き方をしています。
独身で仕事を持ち誰にも頼らず暮らしている三女の部屋は居心地がよいけれど、この人は姉(長女)に「そんな邪魔な子だったら孤児院にでもやったらいいでしょう!」と子ども本人の目の前ではっきり言うほど大人本位。

 

この小説は再読すると冒頭の一行が妙にリアルに感じる仕掛けになっていて、子どもの精神の崩壊もさりげなく描写されています。学校の新任の先生に嫌われてしまっただろうかと大人の顔色をうかがう場面などは、ヘルマン・ヘッセの小説のよう。
全くシャレにならない話なのだけど、大人には大人の人生がある。これを最後までグイグイ引っ張って読ませる技術は、どうにもこうにも林芙美子マジック。せつなくて苦しいけど、ここまで全方位的に自己責任論で突っ走られたらぐうの音も出ません。

物語は是枝裕和監督の映画の世界に通じるものがありつつ、どこかカラッとしていて、こういう現実を描いても皮肉にも不気味にも感じさせないところが林芙美子の非凡さだよなぁと思いながら読みました。

この人はいつも、悪夢のような現実記憶の書き換えかたを教えてくれる。

 

泣虫小僧

泣虫小僧