うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

或る女 / 平凡な女 / 美しい犬 林芙美子 著

昨年からこの作家の本をお風呂で電子書籍で読んでいます。

或る女」という短編小説と「平凡な女」というエッセイで見せる著者の言葉が、並べてみるとまったく違う性格で大変興味深かったのでそれぞれ感想を書きます。そのあとで読んだ「美しい犬」という短編小説は珍しくペットが主役。ペット目線で描かれる社会の格差が少しおもしろかった。これもあわせて感想を書きます。

 

或る女

或る女」はきもちわるいおばさんだなぁ、というのが正直な感想。
そして自分の妻が「きもちわるいおばさん」であることに気がついていただけでなく、そのきもちわるさをありありと目にしてしまったあとにどうすればよいかを自分に置き換えて追体験する。
「きもちわるいおじさん」もいれば「きもちわるいおばさん」もいるのがリアルな世の中。女性の権利が主張されるようになれば当然、「きもちわるいおばさん」も可視化されていく。「或る女」は38歳の時点で、すでにかなりきもちわるいことになっている。いまの感覚で言えば、まだお若いのに。
わたしはこの時代に生まれていたら50歳まで生きられないだろうと思いながら読んだ。

或る女

或る女

 

 

平凡な女

このエッセイは自分はいまはこのように考えるという著者の思いが淡々と書かれているのだけど、まあなんともうまい。冒頭からつるつるつるっと読まされる。まえに「うさぎとマツコの往復書簡」という対談を読んだときにフェミニズムのありようについて「スカートを穿いた男」というような言いまわしがされていたのを記憶しているのだけど、林芙美子はこういうこともちょっとおもしろく書く。

非常にむつかしい言葉で色々と女の生活が論議されていたが、早いこといえば、自分の仕事のために女の生活が煩わしいというのである。どの世界にでも、いっそ口髭をつけて歩いておればよいようなむつかし気な女性が一人二人はあるものだ。

なんというか、絶妙なんですよね…。

昨年わたしがここで林芙美子の小説の感想を連投していたら、友人が「婚期」がおもしろかったといってそのポイントをあげてくれたのだけど、女性のいっけん不可解な行動の中にあるエゴをつまみあげてカラッと素揚げにして塩をかけて出してくるんだけどそれがもう抜群にうまい、というような部分を友人も見つけていてうれしかった。

こういう制御のうまさみたいなものは、なんといったらよいのだろう。雪国出身の人が見せる雪道運転のうまさみたいに、ああもうそりゃうまいよねという圧倒的に納得できるなにか。

平凡な女

平凡な女

 

 

美しい犬

童話集に収められていた物語らしいのだけど、大人向けじゃないのこれ? というくらい、最後までペットの名前が出てこない。そこに意味がありそうな気にさせられる内容。読んでいる途中で適当に名前を当ててみたくなるのだけど、名前をつけようにもイメージを具現化しようとする過程で自分の思考がどんどんシュールな感じになる。

ビスケットをもらえる。はげしいうれしさで兵隊さんに飛びついていく。そんなペットの喜びようを「ちぎれるようにしっぽを振って」とさらっと書く。動物のエモさもそんなふうに書けちゃうんだ、すごいなと思いながら読んだ。

文章そのものの描写力にしびれることがものすごく久しぶりなので、いちいち感動してしまう。そしてこれはアメリカに尻尾を振る日本人の姿を重ねている?思うと、タイトルも含めてその意地悪さが好き♡

美しい犬

美しい犬