うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

君はかわいそうだと言いたかった男

 有給休暇を使って出かけた旅先で、「この悠久の地へやってきてほんの一週間で帰るなんて、あなたはかわいそうな人だ」という目を向けられたことがある。と先日友人が話していた。

 彼女は生活も経済も自立していて、旅は息抜き。生活基盤の下支えになる仕事の流儀や立ち振る舞いが悠久の地ではひどく目障りになることを心得ていて、ゆったりとした空気の流れを乱さないよう、とりわけ日本人同士での会話では発言に気をつけているという。

 「まあ平たく言えば、社畜乙とその人たちは言っていたのよね」と話していた。

 

 

 有給休暇を使う旅は最高だ。旅をしているのにどういうわけか報酬が振り込まれる。

先月はこんなことがあった。わたしが週末に隣国へリフレッシュしに行くと話したら、元カレが自分も同行したいと言ったきた。もちろんOKだ。気心の知れた間柄だし、二人のほうが楽しい。

彼は外国人なのでわたしたちは英語で会話をする。別れたのは何年も前で、いまとなってはお互い立派な中年といわれる年齢になっている。

 

 

 そんな中年のわたしはこのところ仕事のペースを変え、安定してパフォーマンスを出せるよう、とにかく疲れすぎないようにしている。以前のようにまとめて長期休暇をとるような働き方をしていない。今回も数日間の小旅行だ。

 

 

 同行者の元カレは今も三ヶ月に一度は他国へ出かけている。アクティブである。

「このまえ旅行したのはいつ? たしか、一年前にどこかへ行っていたよね」と訊かれたので、「あれ以来だから一年ぶりだよ」と答えた。

その元カレがわたしに冗談で「prisoner」と言った。

意味はわかる。まあわかる。彼も「社畜乙」とわたしに言いたいのだった。

 

 

 彼は三ヶ月に一度は他国へ出かける。アクティブである。

定職に就かないから一箇所に長く居られない。滞在ビザの関係上、三ヶ月に一度は他国へ出かけて行く。わたしたちが住んでいる国ではそれをビザランという。

わたしがひとりでのんびり過ごしている間、彼は査証の手続きに出かけ、また合流し、一緒に楽しい旅の時間を過ごした。

わたしの口座にはプリズンから旅行中も給料として謎の報酬が振り込まれる。

 

 

 

 

(この話は身近なフィクションです)