うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

幸福の彼方 林芙美子 著

寒くなってきたので、お風呂読書の時間が長くなっています。
ここしばらく外国人作家のものを立て続けに読んでいた反動か、この作家がやさしさを炸裂させる文章にノックアウトされちゃいました。

 

お見合い結婚の話なのだけど、なんとも言えぬせつなさがあって。
前段の流れがあるのでそこだけ抜き出してもその良さは伝わりにくいのだけど、フーミンの書く ”信頼感に裏打ちされた淡いときめき” は日本語界最強!!! と、わたしはついつい、力説したくなってしまいます。

「村井さんは何がお好きですか?」
 と訊いてみた。
「何ですか? 食べるものなら、僕は何でも食べます」
「さうですか、でも、一番、お好きなものは何ですの?」
「さア、一番好きなもの‥‥僕はうどんが好きだな‥‥」
 絹子は、
「まア」
 と云つてくすくす笑つた。自分もうどんは大好きだつたし、二宮の家にゐた頃は、お嬢さまもうどんが好きで、絹子がほとんど毎日のやうにうどんを薄味で煮たものであつた。
 うどんと云はれて、急に御前崎の白い濤の音が耳もとへ近々ときこえてくるやうであつた。

このあとにちょっと出会いの経緯を補足するような短い一文がふたつ続くのだけど、ここで「御前崎の白い濤」を持ってくるところとか、うまくて悶絶しちゃう。天才にもほどがある。

 

ものすごく短い話なのだけど、何度もじーんとくる心情描写があって、頭がおかしくなりそうでした。待て。そもそもわたしの頭がおかしいからか?

人間を信頼する気持ちがちょっと薄まってしまっているとか、心に潤いが欲しいときに、ぜひ読んでみてください。

皮膚の潤いには、物理的に油やワセリンを塗ってください。ああもう、乾くわー。