自分で「始めた」人の話はおもしろい。
観察したり予測したりするだけなく、鉱脈を感じたら掘ってみる人は行動的でおもしろい。こういう人たちの話はまったく同じ流れでなぞることができないからノウハウにならないのだな…と思いながら読みました。
この本はわたしにとって、こんな本を待っていた! という内容。ファッション誌のようにビジュアルを楽しく追いながら(なんと全員がそれぞれにおしゃれ)、Q&Aへの回答が添えられています。その人数なんと112人。なのに一冊2000円でいいの? という充実度です。毎日ベッドの近くに置いて、1ヶ月半かけてゆっくり読みきりました。そして今も、ぱらぱら開いては気持ちを軽やかにしています。
デザイナーやアート作家、文筆家、料理人、美容家が多く登場するのは、アメリカだと自分で始めやすい職種だからでしょうか。ほかにミュージシャンや司会者の人もいて、ヨギーとしてはクリスティ・ターリントンが入っている点が見逃せないのですが、クリスティ・ターリントンが目立ちすぎないほど、みなさんそれぞれ素敵です。
Q&Aへの回答も、イラストレーターの人はイラストを添えていたりして、編集者の仕事愛を感じる構成。回答者はそれぞれに苦手なポイントを自認しながら1ミリも演歌っぽくない。細腕繁盛記でもなければ、肝っ玉かあさんでもない。時代の流れの中で悩みながら、手探りでチューニングしながらゴソゴソ開拓してる。武勇伝でも修行伝でもないのがいい。
回答もいちいち現実的で、夢という幻想のオブラートに包まない言葉がすばらしい。
Q:あなたにとって成功とは?
A:私にとって成功とは、常に複数の選択肢があること。自分の意志で「持たない」「やらない」「行かない」と決めるのと、それができないのとではまったく違う。
(アシュレー・C・フォードさん)
Q:クリエイティブの世界にいる女性のどんなところに憧れる?
A:真摯な批判と意地悪な攻撃の違いがわかる能力。
(キャスリーン・ハンナさん)
Q:自分で経営して得た最大の教訓は?
A:約束は控えめにして、期待以上のものを提供するということ。
(アニタ・ローさん)
リスクをとって自分で始める人や創始者が後継ぎ社長と少し違って見えるのは、伝えたいことが自分の中から湧いて出たかどうかだと思うのだけど、この本の面白みもまさにそこが重量感になっています。それが、言葉だけでなくビジュアルで伝わってくる。
日本みたいに「ご縁があって」「たまたま機会に恵まれて」というトーンの人がいないのも、すごくいい。夫が生活費を負担してくれて貯金があったからはじめられたなどのこともそのまま語られている。過度な謙遜も仏教チックなきれいごともなく、ライフスタイルへの質問の回答に自然に祈りや瞑想という言葉が多く登場するのもアメリカらしい。
写真を見てると文房具や家具や素敵な服が欲しくなる! 昔アメリカのドラマを見てわくわくした感覚を久しぶりに思い出しました。
自分で「始めた」女たち 「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション
- 作者: グレース・ボニー,Grace Bonney,月谷真紀
- 出版社/メーカー: 海と月社
- 発売日: 2019/05/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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余談:わたしの知っている、自分で「始めた」女たち
この本を読んでいたら、かつて訪れたことのある「自分で始めた女性」のいる場を思い出しました。料理人が多いな…。
▼名古屋市塩釜口でインド的脱力感炸裂の南インド食堂をはじめたモモヨさん
▼愛知県瀬戸市で生活雑貨店とアートギャラリーを展開するかおりさん
▼兵庫県西宮市で「ゆとりらYOGA」をはじめたあけみさん
▼インド・リシケシで日本食店「カフェ・オカエリ」をはじめたミチコさん
この5人を思い浮かべながら、わたしはある共通点に気がつきました。みなさん一様に、ものすごくくだらんギャグのような瞬間やバランスを大切にしておられる。自分で始めたい理由って、実はそこかも…。アホを封印したくない、そういう気持ちをエネルギーに替えている気がする。気のせいかな。