うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ウパニシャッド 佐保田鶴治 著 「解題」とまとめINDEX

昨年の9月から今年の2月にかけて、不定期で紹介してきた「ウパニシャッド」の紹介まとめです。
末尾にある「解題」の章からの引用とともに、末尾に全13記事へのリンクインデックスをつけます。ウパニシャッドとかヴェーダというのは、一般的にはとっかかりにくいものだと思います。インド人じゃないですからね。ただ、ヨーガにまつわるあれこれ触れていくと、その根幹や歴史について感覚的に触れてみないことには「なんでそういう発想になるの?」ということがなんとなくどこかにあるままになります。そのままでいいんですけれども、例えばインドへ旅行へ行って「二度と来るかこんなところ」と思うような場面があるとしたら、きっとこういう背景への理解で違ってくる。
逆の立場でいうと、「陰翳礼讃」や「茶道の心」などにある日本の心の背景、四季のある国の発想にそれと近いものを感じます。うちこの最も身近なインド人は「日本人は本音と建前だからネ!」と言いますが、こういう感覚を持って日本人と接しているから、「日本が好き」と言えるのではないかな、と思います。


ウパニシャッドについては、後半でヨーガの教えも出てくるのですが、楽しみかたとして「インドの文体の歴史を楽しむ」ものとしての魅力がはずせません。その点に触れた記述を後で引用紹介します。
先に、「ウパニシャッドとは何か?」というドンズバな項目がありましたので、そこから紹介します。

<293ページ ウパニシャッドとは何か? より>
(「チャーンドーギァ」のストーリーをひきあいに)
一年の侍者を勤め上げた弟子でなければ、というような制限が何処にもない。とくに面白いのは、後にも述べるように、婆羅門姓階の道士が却って殺帝利(クシャトリア・武門)姓階の王者に道を問う記事がかなりあるということである。これらの記事は古いウパニシャッドに豊かである処から推すと、ウパニシャッドの伝承は却って古代において秘密的ではなかったと見なければならない。これを以て見ると、たとえウパニシャッドなる言葉が「師に近づく」の義から出たとしても、この言葉が一個の術語として用いられ始めた時にはすでにその社会的な原意を失って、当体的(sachlich)に「秘密なもの」を意味するようになっていたのであろうと思われる。つまり、ウパニシャッドとよばれる格言、誓戒(ヴラダ)、あるいは教義は通常人が聞いても解し得られぬもの、もしくは表面上の意義とは異なった密意を含むもの、そしてそれ故に不可思議、神秘な呪力を蔵するものと考えられたのであろう。

ウパニシャッドの伝承は却って古代において秘密的ではなかった」というのを読み取ることができるのは、ウパニシャッドの面白さの一つだと思います。古代になるほど階級を超えていた。これはなんだか大きくなっていく組織の歴史を見るようで、とても興味深いのです。過剰に権威づけて棚上げしていくことというのはヨーガの世界に関わらず、あちこちで見られますよね。これは本物だとか偽者だとか、そういうことが後になって出てきたというのが面白いんです。



次は、文体の歴史について触れられている箇所。

<315ページ 古ウパニシャッド文献の各論 より>
第一期ウパニシャッドは仏教以前の成立なること疑いなく、後のインド思想の萌芽はほとんどすべてこれらの中に発見されるのである。しかしこれを以てウパニシャッドが後世のすべての思想の起源となったとみるべきではなく、ウパニシャッド思潮の源泉が他の諸思潮の源流と同一雰囲気にあったという風に解釈すべき場合が多い。


(中略)


ウパニシャッドの中軸をなす否定論理や認識主観説が正統派ヴェーダーンタによって充分に受けつがれなかったというのも、それらがもともと異種文化的起源をもつ思想であったからではなかろうか? ウパニシャッドに関する困難な問題とされる、サーンキァ体系とウパニシャッド中のサーンキァ思想との関係の如きもこの点から理解し得られる。これらの二サーンキァ思想の間に出入や相違があるのは、一方が転化して他方になったのでなく、ウパニシャッド時代にあったサーンキァ思想の古形が一方ではウパニシャッド的に変形されて現われ、他方ではさらに進化してクラシカルなサーンキァ体系として現われたと見るべきであろう。総体にウパニシャッドは元の思想体系を忠実に伝えるものではなく、原形の貌がはなはだ稀薄となる迄にこれを換骨奪胎し、消化して自家の薬籠中に取り込んだものであることは、『マーイトリ』において明らかに仏教に対する批判と見られる同七・八等の文を見ても推知せられる。『チャーンドーギァ』と『ブリハッド』に次いで古いのは『カーウシータキ』であると思われる。何故かはわからぬが、シァンカラが註しておらないので新しいものと見られたが、色々な点から見て前二者に最も近い作品だと思われる。何かの事情で永く埋もれていたのではなかろうか? もっとも、比較的新しい部分と古い部分とがある。


(中略)


『アーイタレーヤ』はキース氏によって年代上第一位に置かれているが、その根拠は薄弱である。しかし確かに『ターイッティリーヤ』よりは古く、『カーウシータキ』との前後は定かではないが、その思想内容には余り見るべきものがない。


(中略)


文学的形式からいえば一篇の体裁を問答体に仕組んだ所は『プラシナ』その他の多くのウパニシャッドによって模倣されている。その他思想内容においても『カータカ』『イーシァ』『ムンダカ』等によって継承されているものが多い。ヨーガ(yoga)なる文字が初めて見えるのもこのウパニシャッドである。


(中略)


 第二期の作品は思想において第一期のような自由、闊達でないばかりでなく、表現においても簡潔なる標語風のものとなり、韻律を調えている場合が多い。


(中略)


ことに『カータカ』や、『シヴェータシヴァタラ』に見られるサーンキァとヨーガの術語、またヨーガと結びつく最高主神の思想等は正統派以外からの大きな影響を示すものである。『ムンダカの』の勝劣両学道は、体系的組織を立てようとした集大成的思想家の卓越した手段である。この書は恐らく次の第三期との中間に位するものと見られる。『ムンダカ』と『プラシナ』との間には密接な関連のあることが推知せられるが、恐らく『プラシナ』の方が後次的であろう。


(中略)


『マーンドゥーキァ』と『マーイトリ』との前後は容易に決めることはえきない。文章からいうと前者の方が遙かに古文の趣をもっているが、この事は却って擬古文としてその後時性を証明するものとも考えられるし、内容上からいって、『マーイトリ』では簡単であった�却(オーム)の観想が『マーンドゥーキァ』では非常に詳細に発展されている点から見て、このウパニシャッドを後期に配置した。

初期の「チャーンドーギァ」「ブリハッド・アーラニァカ」の問答形式は感動モノなのですが、実際こんな問答形式でインドの青年からジョークを教えてもらったことがあります。(関連日記「インドのジョーク事情」)
日常会話でも「議論好き」といわれがちなインド人の背景にはこういう問答形式の型が染みついているのではないかな、と思ったりします。「なんでそう思う?」という質問のされかたをすることが多いしね。
ターイッティリーヤ」はヨーガの記述が登場するウパニシャッドですが、それよりも「梵」への執着が垣間見えはじめた、という印象を受けます。それが「イーシァ」で「こだわるとしんどいぞぉ(中庸がいいっすよ)」ってことになって、「カータカ(カタ)」で本格的にヨーガになっていく。この流れの中では「イーシァ」が面白い。「カータカ(カタ)」はもうヨーガ・スートラに近い色が出てくるので。
シヴェータシヴァタラ」では仏教の存在が感じられてくる。以降はもうかなりスポ根的なヨーガ・スートラな感じになってくるのですが、「プラシナ」でいったん「カーウシータキ」あたりに立ち返ろうという気概が見える。
佐保田先生が「総体にウパニシャッドは元の思想体系を忠実に伝えるものではなく、原形の貌がはなはだ稀薄となる迄にこれを換骨奪胎し、消化して自家の薬籠中に取り込んだものである」と書かれていますが、実際読んで振り返ってみると「このウパニシャッドの頃はこういう背景があったんじゃないのかな?」なんてことを想像するのが楽しくなってくる。
最後のふたつ「マーイトラーヤナ」「マーンドゥーキァ」はかなりヨガ色が強いのですが、ヨーガ・スートラが2〜4世紀頃といわれているのに対し、「マーンドゥーキァ」が「1年から200年頃」といわれているので、その頃(100年〜200年の間)にヨーガ行が「なんかさー、最近こんな感じがするんだよ」「やっぱ? 実は俺もなんだよ」的な感覚で実践、実践で体系立てられていったのかな、と勝手に妄想を楽しんでいます。
いやー、でもほんと、昔のインドの暇な人たちに感謝。


最後に、INDEXつけときます。

チャーンドーギァ・ウパニシャッド
ブリハッド・アーラニァカ・ウパニシャッド
カーウシータキ・ウパニシャッド
アーイタレーヤ・ウパニシャッド
ターイッティリーヤ・ウパニシャッド
イーシァ・ウパニシャッド/「中庸の道」
カタ・ウパニシャッド
シヴェータシヴァタラ・ウパニシャッド
ムンダカ・ウパニシャッド
プラシナ・ウパニシャッド
マーイトラーヤナ・ウパニシャッド
マーンドゥーキァ・ウパニシャッド
夢位の解釈 シャンカラ/ラーヤーナ(マーンドゥーキァの一部)



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ヨーガ根本教典 佐保田鶴治
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4 主要13ウパニシャッドの虫食い的抄訳
5 ヨガを日本に広めた先生が書いた本。