うちこのヨガ日記

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インド思想史 (中公文庫) J・ゴンダ 著 / 鎧淳 訳

インド思想史 (中公文庫) J・ゴンダ 著
オランダ人ヤン・ゴンダ氏の著作を、40年以上後に鎧淳氏が辻直四郎氏らの教示を受けながら訳した渾身の良書。
もとは昭和56年に冨山房から出版されたもので、いまは岩波版のほうが普及しているようです。わたしは中公版を読みました。
ヒンドゥーイズムもウパニシャッドもヨーガも仏教も、教典や叙事詩を読んでいると「おや? この当時、この考えが流行ってた?」「なにか目に浮かぶ対象に対して自身の立場を正当化するような内容だなぁ」と思うことがあります。
この本は、そんな多くの「おや?」を整理してくれる一冊。宗教、カースト、政治、哲学……これらの背景を汲むインドの時代の読み方を教えてくれる。思想を掘り下げつつ、併せてそこで語られる立場のスタンスが解説されています。
各時代の教えを思想史として細かく解説しながら、最終章の「革新的思想と唯物論」では唯物論者、不可知論者とそれに対するバラモンの立場を鮮やかに示す。最終章は、いままさに中国の急成長を横目に悶々とするインドの心を丸裸にするような内容です。


いくつかのインド哲学本の読了がないと難しいかもしれませんが、引用に辻直四郎氏の著作が使われているので、辻氏の本を読んだことのある人ならすぐいけるでしょう。
この本全体を通じて時代の思想の潮流が整理されたことがたくさんあったのですが、例をあげると、こんなところがありがたかったです。

  • ギリシア人とインド人が、異民族に対してとってきた心の態度、背景の違い。
  • 「天則」への畏怖のスタンスを解説から、神道ヒンドゥーイズムの共通要素が浮かんでくる。
  • バラモンの権威の扱い方への配慮背景などがけっこうぶっちゃけて書かれている。
  • リグ・ヴェーダ」と「マハーバーラタ」 の間の時代のブラーフマナ文献時代にボリュームが割かれている。
  • 特に仏教の解説まわりで「〜を解脱の要件としているが」のように、端的に整理されている。
  • 小乗仏教大乗仏教の思想の違いが、オランダ人による昔の本であるということもあり、妙な婉曲なく書かれている。インド人から見た仏教と日本人にとっての仏教の視点の違いがわかりやすい。スリランカで感じたあれこれがスッキリした。
  • 「創造主」まわりのあれこれで、「梵」以外のバリエーションが登場する。
  • 「我」にまつわるあれこれの単語が時代感とともに追えた。(アートマン、プルシャ、プラクリティ、ジーヴァ、マナス、アハンカーラなど)
  • ジャイナ教とヨーガの関連性が掘り下げられていた。
  • 仏教思想とヨーガ思想の「カルマ」の取り扱いかたの違いが掘り下げられていた。
  • クリシュナの扱いが地方神から重要な神に変わっていく背景なんて、他の本で読んだことがなかった。おもしろかった。
  • 『バガヴァットと梵との関係は、ギーターの中でも曖昧なまま放置される(P172)』などの記述が、よい。「あのね、そこ深読みしてもね、基本、そこは放置されて終わるからね」という説明は助かる。
  • 『グナの語を 「性質」と訳すのは適切でなく、むしろ「構成要素」が、訳として本来の意味に近いといえるであろう(P186)』のような解説もよかった。


バラモンの権威をどう扱っているかってところが、インド哲学の背景に渦巻いているのが面白さでもあり、ときに面倒くささでもあるのだけど、そういう面倒くささがより楽しめるようになります。
仏教に対しても偏りなく書かれているので、「仏教よくできてるなぁ」というだけでなく、ある意味「そこ仏陀の限界だったでしょ」というような要素も、ぼんやり感じていたことが書かれていました。ずばりな書き方ではなく他の思想に対比する形なので、いろいろな立場での捉え方が、土台からじわーっとしみてくるような感じです。


読みながらのメモはいつもすごく感覚的なのだけど、「バガヴァット・ギーター」の章に、「阿弥陀信仰っぽい」という付箋があったりして、そういうところはいま見るとサッと思い出せないので、何度も読み返すことになりそうです。

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