少し前に昔からの友人が50代からキャリアチェンジをし、その話がとてもためになっています。制作の仕事から接客業への転身で、不特定多数の人を偶発的に知っていく経験とそこで起こる話が、本人から直接聞くと沁みることばかりで。
この本はその友人と一緒に書店へ出かけたときに見つけたシリーズで、50代になってから派遣型の旅行添乗員に転職した人のお仕事日記です。
勤務シフト例が図解で入っていたりして、内容がかなり具体的です。
著者はいま現在70歳を超えた、わたしの親よりも少し若いくらいの方。
20代の頃に映画のシナリオライターを目指していたそうで、文章のテンポがよくエピソードがそれぞれの短編映画のように面白く、吹き出したり泣かされたり。
リアルすぎる愚痴や業界の環境・仕組み・謎のツアービジネスのからくりまで書かれているのに、読んだあとに妙に心にジーンときました。映画化したらいいのにと思うくらいです。
ほかの出版社から続編のようなエッセイが出ているので、著者は第三のキャリアをスタートされたご様子。どの文章も笑えるのに人徳を感じる内容で、そこにつながる経験を50代から得てきたなんてかっこよすぎます。
どんな仕事もどんな職場もそうなんだな・・・と思うことが書いてあり、時間を置いてからエピソードを振り返る視点がニュートラルで、20代の若者にコケにされても恨み節は濃くならず次の話題へトントンと進んでいきます。
なかでも軽度の知的障害を持つ養護施設の人のツアーの話は感動もの。「年がいもなく」楽しんでいる姿に感涙した著者のお話に、わたしも感涙。「年がいもなく」というのはどうにも意地悪な視点だよなと、あたらめて思いました。
そしてこの意地悪の継承文化はあらゆるところにある。
自身が上質を目指してがんばってきたからこそ、ほかの職種の人にも上質を求めてしまう。このねじれたカスタマー心理地獄について、著者ならではの筆致で整理されて書かれていました。これは癒やし業界の人にも刺さりそう。
添乗員さんは派遣会社からくるので、いろんな旅行会社を見ています。
その中にあったこのエピソードもすばらしくて。
ある日、クレームに対応する部署の人がこんな話をした。
「われわれは、添乗員に対する苦情が寄せられると、話を鵜呑みにはせず、必ず内部調査を行ないます。そうすると、クレーム10件に対して、本当に添乗員に責任があるケースは2~3件です。ですから、いろいろなことを言ってくるお客様がいるでしょうが、自信を持って仕事をしてください」
(打たれ強い人:言いがかりにどう対応するか? より)
こういう関係性って、特に現代のように専門職の人がテンポラリーで交わるスタイルだとあちこちにあるんですよね。
雑学もたくさん入ってきます。
旅行を意味する英語のトラベルは、トラブルが語源だという。
言われてみるとそうとしか思えなくなってくるから不思議です。
著者は初めての海外添乗がインドだったそうで、エピソードに事欠かない(笑)。
この本を最後まで読むと、本当にこの言葉が沁みます。
どんな仕事でも、「忍耐」なくしてはつとまらない。少なくとも瞬間湯沸かし器タイプは、サービス業の最前線には向かない。
まさに「最前線」の人の話でした。銀座のママや旅館の女将の仕事のよう。
ドライバー、バスガイド、学校の先生(修学旅行の話がある)など別の職種の人との関係性もわかって、このお仕事日記がヒット・シリーズなのも納得。
イラストがいちいちユーモラスで、重く感じずに読ませてくれます。おすすめよ。