かつての仕事仲間が読んでよかったと言っていて、わたしも買って読んでみました。
ハタ・ヨーガのクラス構成を考えるときに、こういう本(このブログで紹介したものでは『整体かれんだー 旬な身体になる』など)を参考にします。
季節と身体に関する本は、ここ数年の気候変動で以前の8月の内容を6月くらいに感じるほどズレており、わたしの真夏のヨガは「余分な熱を逃がしながらなんとか腹と脚の力をキープして持ちこたえるには・・・」という考え方に変わっています。
これは運動を日常に組みこむ多くの人がそうだと思うのですが、わたしは「なぜ身体を動かした後は心もスッキリするのだろう」という疑問をずっと持ち続けていて、身体のほとんどが液体だからというのは理論上わかっているのだけど、それと気分との関係について、ときどき自然や気象にヒントを求めます。
アーユルヴェーダはそういう視点でものを見る医学ですが、インドと日本では気候も風土も大いに違います。わたしは子どもの頃に自分の身長よりもうんと高くまで雪が積もる地域で過ごし、いまでは東京に住んだ年数のほうが長くなったので、身体と気候の関係性にも興味があります。
この本の著者は客室乗務員の経験があり、こういう時に頭痛薬を求める人が多い、などの "空の世界のストリートの知恵" がもともとあって、そのあとに気象予報士になられています。この本の出版は2001年で、著者はニュースステーションのウェザーキャスターを務められていたそうです。
本の帯コメントは久米宏さんで「眼からウロコが落ちるとよく言いますが、5枚ほど落ちました」とあります。
わたしの場合はかなり大きなウロコが4枚落ち、もし花粉のシーズンであれば、鼻がグスグスする季節に読んでいればもう1枚落ちたと思います。(やっぱり5枚)
このほかにも、小さなウロコが追加で10枚くらい落ちています。
20年前の本なので、この時期からさらに大きく気候が変わっていますが、わたしとしては、特に以下が大きな発見でした。
- 台風とフェーン現象のこと
- 汗のかきかたのこと
- 高気圧・低気圧の呼び名のこと
- 日照不足と感情のこと
台風とフェーン現象のこと
わたしは新潟県で育ったので、小さい頃によく大人たちが「フェーン現象」という言葉を口にしていたな、そういえば東京に来てからはあまりフェーン現象を恐れる会話を聞いていないな、ということに気がつきました。
わたしが子どもの頃に恐れた "フェーン現象" は「ああ、あの独特の地獄のような暑さが来るのか」というものでしたが、言葉自体はドイツ由来で、ドイツでは春に吹く風で精神が不安定になる人が増えるそうです。日本海側のそれはもっと違う雰囲気のもので、ぬる暑くて気持ち悪いもの。
わたしは今年の東京の夏を、特に6月の最初の暑さを、子どもの頃に感じたフェーン現象のようだと思いました。ものすごい気候変動です。
夏目漱石の小説のタイトルにもある「野分(のわき)」が明治時代まで「台風」を指す言葉であったことも、この本を読んで初めて知りました。源氏物語や枕草子のなかでは「野分」と書かれているそうです。
汗のかきかたのこと
「タイ人と日本人の汗のかき方」というトピックがあり、興味深く読みました。
タイ人は発汗の始まりが遅く全身にいっせいに汗をかきはじめ、日本人はタイ人よりも汗のかきはじめは早いけれど腕や足の発汗が遅い、という実験データがあるそうです。
日本には寒い冬があるので、寒さにも暑さにも負けないための仕様のようですが、沖縄で生まれ育った人はタイ人のような汗のかき方をするそうです。
わたしはタイへ行くといつも「なんでこんなに砂糖の多い味付けのものを食べ続けられるのだろう」と不思議になるのですが、こういうのも関係があるのかしら・・・。
インドでは「なんでわたしだけ汗かいてるの?! というか、なんでみなさん汗が出ないの?!」と思うことがあります。みんな口では暑い暑いと言いながら、あんまり汗をかいていない。
同じ Hot でも焦がし系と蒸し系があるのはわかるのだけど、日本ではここ数年の夏の気候が、基本仕様を超えてきていると感じます。
高気圧・低気圧の呼び名のこと
天気予報を聞いていると「移動性高気圧が~」というフレーズは耳にするけれど、なぜ「移動性」をつけて言うのか、などのことは知りませんでした。冬の高気圧が停滞性であったのに対して、時速40~50キロで進む春の高気圧であることを区別するために「移動性」と呼ばれているんですね。
この本を読むと、天気図にいかに多くの情報が含まれているかがわかります。
言葉の面でも、同じ気圧でも、日本海低気圧、太平洋高気圧、温帯性低気圧、熱帯性低気圧など、この世界にはこういう区別があるのだということを今更ながら知りました。
いままでいかに漠然と天気予報を聞いていたか。「で、傘はいるのか? いらんのか?」というスタンスで情報を取りにいく態度は、「ヨガだかストレッチだかマッサージだか知らんけど、いいから気分よくさしてくれ!」みたいな粗雑さです。
未知の世界の知識と研究の歴史に敬意を抱く、とても良いきっかけをくれる本でした。
日照不足と感情のこと
わたしはコロナ以降、日光を感じる部屋で一年を通して仕事をするようになってから、「夕暮れ問題」について考えてきました。
オフィスビルにいるときはあまり感じなかった外の明るさ、その変化を感じながら仕事をしています。
わたしは子どもの頃から夕暮れ時が苦手で、それは「家に帰らなければならない」という憂鬱さとセットだったのですが、この感情が、いまは大人になってくつろげる家にいるのにふわっとやってくる。
そのとき行うべき対処は外出や気分転換で、わたしはコンビニにコーヒーを買いに行ったりします。台所で自分で淹れたほうがおいしいのだけど、買いに行きます。
この本には「日照不足が鬱にさせる」というトピックがあり、よく言われている体内のメラトニン分泌量と季節性感情障害(SAD)、その発症率の男女の性差について触れられていました。
光は心の栄養なんだなとしみじみ思いました。ネオンの街に繰り出したくなる人の気持ちが少しわかる気がしました。
わたしも今年の冬は、キラキラの街でたまに楽しい予定を入れようかな。家の中でも、明るい蛍光灯の下で行う作業もいいかも。(毛染めとか)
上記のほかにも、これは知って良かったと思うことがたくさんありました。
わたしは以下の箇所に付箋を貼っていました。
- 「冬将軍」という言葉はロシア由来(「鍋奉行」の親分ではなかった)。
- スギ花粉の量は夏の天候に左右される(=来年はすごいはず)。
- 多くの人が快適だと感じる温度&湿度の組み合わせは、22度&65%。
- ビタミンDの生成に必要な紫外線にあたるのは3分でじゅうぶん。
そんなに文字量が多くない新書サイズの本なのに勉強になる情報ばかりで、しかもそれがさりげなく散らばっています。プロの雑談を聞いているような感じ。
お天気って「お天気コーナー」が切り分けられているせいで、体系立てて理解しようとする頭のスイッチが入りにくいんですよね。
この本を読むことでそれが示す情報の性質を知ることができました。
あたらしいものの見かたを伝えてくれる著者だなと思って他のご著書も探してみたら、ここ10年くらいの出版物を見ると、まったく別のジャンルの発信をされているようで、それはそれで気になる内容です。