小説家、エッセイスト、詩人、画家、漫画家、劇作家、俳優など、いろんな人物の「装い」にまつわる文章を集めた本を読みました。
何かで文章を読んだ事のある人とない人が、ちょうど半々くらい。
こうやって並べてみると、画家の文章のうまさが際立ちます。
小説家やエッセイストが暮らしやルールや足し算引き算、社会的虚栄心について書くのに対して、画家の視点には原始的な承認欲と装いに肉薄するものがある。
画家と並ぶと文豪の観察眼がかすむ、不思議な陳列効果がありました。
小説家の中では、加齢と装いを鋭く粋な視点で書いた幸田文さんと、個人の誠実さが光る吉村昭さんがよかったな。
画家の中では、「夜会で上半身をあんなにさらけ出しといてストッキングを履けとかいう西洋人の感覚わかんねえ!」ということを上品な日本語と絵で描いている小村雪岱さん(日本画家)が最高。
なんと今回は頑張って46人分の感想を短く書きました。
スクロールしてみてね!
1 毎日のおしゃれ
「初」は、この人の文章を読んだのが初めての人です。
作品 | 感想 |
服装語彙分類案:柳田國男 | 初:項目立てがスマート |
履物とガラス玉:佐多稲子 | 初:おしゃべりな伯母さまがずーっと喋っている感じでどうも頭に入ってこない |
正しいアイロンのかけ方:村上春樹 | 「こだわり披露会」会場に突然置き去りにされた自分がかわいそうになった |
新しい沓下:田中冬二 | 初:たった6行で通勤の悲哀が語られていてすごい文章力 |
センスのよいきものの着方、えらび方:宇野千代 | 不動のおしゃれ番長 |
サザエさんの洋服/『サザエさん』より:長谷川町子 | マスオさんが老けてて三木のり平ぽい。ミニスカのサザエがパパ活風 |
服装の合理性:石原慎太郎 | 短いのに濃い。嫌いだけど話は聞いておきたい教授の講義が大収穫だった感 |
働くために:宮本百合子 | この重だるさは「働く」がテーマだからってだけじゃないな、と思った鈍い文体 |
春着の仕度:河野多惠子 | 初:いま女性誌に載せても自然な、さらっと感 |
2 お気に入りの逸品
作品 | 感想 |
鞄:吉行淳之介 | 初:自分語りが最初で切り上げられ、外部との接触の話になるタイミングが絶妙 |
このごろ:幸田文 | 「鏡」は言いにくいことを言ってくれる親友で畏友だと。きびしいけどそこが好き |
フィレンツェの赤い手袋:小川洋子 | かわいい。日本の手袋といえば・・・、の話の出し方がいい |
時計:室生犀星 | 初:指輪より時計派だ、ということを引き伸ばして語られていた |
『没漫画有人生』より「シューゲイザー」:望月ミネタロウ | 初:いい話。靴の手入れと人生観とストリート |
レインコートの美:森茉莉 | 初:育ちが違いすぎるのか、書いてあることがよくわからなかった |
帽子:江國香織 | 初:帽子にロマンを持つタイプじゃないのでピンとこなかった |
3 とっておきのよそいき
作品 | 感想 |
すなおてき化粧品売り場:川上未映子 |
安定の伊勢丹テイスト |
誓いの色を着た日:村田沙耶香 | 頑張るぞ宣言のこの人らしい文章 |
洋服オンチ:三島由紀夫 | 自虐しまくっているのにちゃんとがっつり自慢に聞こえる |
私のびろうどの靴は:林芙美子 | メルヘン芙美子 |
劉生日記 大正九年:岸田劉生 | 初:読みやすい日記。なんでこんなに文章うまいの? |
旅のよそおい:檀一雄 | 初: 冒頭は嫌な感じなのに最後おもしろい。 転換の仕方が絶妙 |
無欲・どん欲:沢村貞子 | 安定のおもしろさ |
4 こだわりの着こなし
作品 | 感想 |
「俺様ファッション全史」より:会田誠 | わたし自身の同時代性から、読みながら自分の黒歴史を思い出して苦しくなった |
わが服装哲学:森敦 | 初:当時の社会のファッション分析としてユニーク |
「服装に就いて」より:太宰治 | 素足でゴム長を履くのが好きなのは、友人の息子・二歳児と同じ。足が臭かろう |
ピアスの穴:米原万里 | 気楽に読めた。思い出話 |
買物:菊池寛 | 初:女性に対して意地悪じゃない? |
外套:江戸川乱歩 | 和服に外套が合わないのをしきりに残念がっている |
映画のなかのシャツ:宇野亞喜良 | 初:万人に読みやすい固有名詞満載の映画エッセイ |
自分の色:白洲正子 | 初:美術とファッションの話。 美術と絡めると有識者ぽくなるのか |
5 夢に見たあのスタイル
作品 | 感想 |
GOTHIC & LOLITA GO WORLD:嶽本のばら | 初:現実に生きるのはうんざりという意思表明としての服装論 |
夏帽子:萩原朔太郎 | 初: イケメンの頭の中を見せられた |
夢の女の夏衣:厨川蝶子 | 初:上品な文章に包まれた意地悪さ |
リボン:竹久夢二 | ほんの少しの文字数で印象を置いていく |
着物:芥川龍之介 | 章冒頭の写真が良すぎて文章が霞んだ |
るきさん:高野文子 | 読んだことがあった。好き(家にある) |
羽織・袴:久保田万太郎 | 初:めちゃいい話 |
衣裳と悦楽:花柳章太郎 | 初:ひとつ前の久保田さんの話に登場する人の文章。粋な編成 |
6 流行りをたのしむ
作品 |
感想 |
『青豆とうふ』より:安西水丸 |
いけ好かない話なのに説明がわかりやすくて自慢に聞こえないテクニック |
洋服論:永井荷風 |
初:文体も含めて昔の中年男性が好んで読みそうなウンチクの凝縮 |
初:「部分採集」という考え方は現代ではスピ扱いに近いな、などと考えた |
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茶色い背広:吉村昭 |
誠実さが溢れてた |
銀座漫歩の美婦人三例:小村雪岱 |
最:自作の挿絵入りの文章。すてき! |
好きな髷のことなど:上村松園 |
初:ピーコのファッションチェックみたい |
『かの子抄』より:岡本かの子 |
デパートが登場した頃の話 |