古本屋さんで買って手元に置いていた本を、この秋に少しずつ読みました。
著者の中川一政さんのお名前を尾崎士郎記念館で知り、昨年の夏に真鶴の美術館へ行きました。その前に、絵だけは何度も目にしていました。向田邦子作品の本のカバーやドラマのタイトルで目にしていました。
美術館へ行ったときに、なんかちょっとした言葉も響くんだよな・・・と思っていたら、なんと少年時代に短歌で賞金を稼いでいたのだそう。謎が解けました。
作家との交流も多く、武者小路実篤や若山牧水、斎藤茂吉といった教科書の中の人が出てきます。長生きをした人なんだな・・・と思って読んでいたら、20代の頃に芥川龍之介と一緒に過ごした晩の話が出てきて、一歳しか違わないのにものすごく物知りな人だったと語られています。
整体の野口晴哉先生の話も出てきます。そのくらい若い頃から世に出ていたことがわかるエピソードが続き、志賀直哉、有島武郎、有島生馬ときて、末っ子の里見弴さまも出てきます。
そんなこんなで、ついミーハーな気持ちで読んでしまう本だったのですが、やっぱり短文がいい。いいんですよねぇ。
わたしが好きなのは、これです。
茶飲みと酒飲みは正反対。
他人や世間との関わりかたの言葉が鋭くて。
人は東西を結ぶ一線と古今を結ぶ一線の交わる一点に生まれる。
だから出会いは大切にしなければ。
私は明治に生れている。大正に生れた人、昭和に生れた人、それぞれ違う境遇に生れている。それぞれを運命と考え、その時点を運命の出発点として、少しでも運命を生かす方法を考えねばならぬ。
私の経験が、そのまま大正、昭和の時代に役立つとは考えられない。運命が違うからだ。ただ私がやったように一つ一つぶつかってまごついたり失敗したりして行くより以外の手はない。
(はじめての人生 より)
少年の頃に文章を評価されたけれども独学で画家になって、美術学校を出ていないことで葛藤もされていて、ずっと考えている人。
文章がいい。いいんだよなぁ。