少し前に読んだエッセイが面白くて、高峰秀子さんの文章に夢中です。
旅行中のエピソードを書いた「エジプトのヘチマ」という文章は短いのに胸がぎゅっとなるような話で、越路吹雪さんとの交友を書いた「めがね」は涙なしには読めないし、昭和36年の時点でお正月をハワイで過ごしていたくらいの銀幕の大スターだった人なのに、文章の中にはウンコとかコキ使うとか、労働者のマッチョなワードが登場していて笑えます。振り幅がすごすぎて。
画家の藤田嗣治、作家の井上靖などの人々が旅や会話の思い出でちょこっと登場して、すてきな交友関係が伝わってきます。
この本はコツコツ買い集めた調度品やファッション小物の写真とともに読めるファッションエッセイで、末尾にある「私の身辺ワースト・テンとベスト・テン」という文章が、「にくきもの・うつくしきもの」を書いた清少納言のような軽快さ。
もちろん、先にワーストからはじまっています。(シニカルな面白さなので!)
電話機にカバーをかけることについて
日本の女性って、そんなに幼児性が豊かなのかしら。それともヒマなのかしら。
という一文で締められるのですが、この一文の前に「女性はメカニズムに弱いから、冷たい感じの電話機に抵抗を受けるのではないか」と言った男性の話があるのがユニークで皮肉が効いています。
ベスト・テンにはナイロンのストッキングが挙げられていて、ストッキングにこんな調子のお手紙を書いています。
敗戦後、「戦後、強くなってきたのは、女と靴下だけ」という言葉が流行りましたけど、日本の女性がいくら強くなっても、到底、あなた様にかなうものではありません。けれど、強くなればなるほどぞんざいに扱われるとは、宿命のはいえ、なんと理不尽なことでしょう。もったいないことです。
これぞ昭和のボヤキしぐさ!
昔の大人の女性って、こういう感じであてこすってたよね・・・。
とにかくいろんな面でセンスが良くて、お見舞いの時に持参するのは花でもフルーツでもなく、10円玉をたくさん入れた手作りの「慰問袋」。これがなんともチャーミング。(写真が載っていました)
わたしはテレホンカードに移行した世代だけど、昔は「10円ある?」「10円貸して」って、あちこちでやっていたもんね。
自分が子役女優で売れてから金の亡者になってしまった養母に対する複雑な思い(好きな気持ちと恨みの感情)がモノにまつわるエピソードとして淡々と綴られていて、ハードすぎるDVを受けながらも大人を観察して教養を身につけてきたタフネスが文章に詰まっていました。
ものすごい人だ。