うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

子どもの怒りの示しかたを見て、親は子どもの「引用元」と感じた人の話(「すべて真夜中の恋人たち」読書会より)


以前書いたアルコールに依存しかけていたかも…の話、毛穴が開くときの話に続いて、読書会からの話題を再び。
この小説について、もし大きなテーマをキーワードで拾うなら、わたしの場合は「信頼」と「引用」です。恋愛小説といわれているのに、わたしにはあまりそれが浮かんでこない不思議な小説なのですが、今日はそのなかでも「引用」の話です。
第5章で登場人物の石川さんがこころのはたらきについて以下のように語る場面で、家庭でのことを想起したという人がいました。

……なんだかね、たとえばさぁ、うれしいとか悲しいとか、不安とか、いろいろあるじゃない。テレビみて面白いなあとか、エビ食べておいしいなあとか、なんでも。でもね、そんなのっていつか仕事で読んだり触れたりした文章の引用じゃないのかって思えるの。何かにたいして感情が動いたような気がしても、それってほんとうに自分が思っていることなのかどうかが、自分でも良くわからないのよ。いつか誰かが書き記した、それが文章じゃなくてもね、映画のセリフでも表情でもなんでもいいんだけど、とにかく他人のものを引用しているような気持ちになるの。


Wさんはふたりのお子さまを育てているそうで、こんなお話をしてくださいました。

子供たちを見ていて、感情の表し方が「ドラマの影響受けちゃってんなぁ」と感じることがあります。ドラマだけでなく、「わたしの怒り方、表現を真似してる…」とも。
思い出すと自分の父親はすごく怒る人で、わたし自身もそれを刷り込まれたかのように怒っていることがあります。
以前「もし音のないところで人が育ったら、音を出せるのか」ということを考えたことがあって、やっぱり見本みたいなものがあるのだよな…と思います。


わたしもたまに小さい子たちのやり取りを見て「この子、時代劇の悪者みたいだな…」と思うことがあり、なんか「覚えてろよ!」といって去っていくときのような、ああいう感じの喋りかた、あの感じをどこから拾ってくるのかと思ったりします。
仕事をしているときは、日本の大人の笑いかたにバラエティ番組に出る人やタレントの動作の引用を感じて疲れることがあります。
はじめて行く国でよく「笑顔って便利だなぁ」と思うのですが、これは笑顔という結果の引用元はおしなべてポジティブに受け取られるものだからなんですよね。たとえそれがセールス上の笑いであっても。そしてその逆のネガティブなものほど、よりドメスティックな領域まで引用元が掘り下げられる。
微妙な表情には奥行きがありすぎる。モナリザだってニカーッと笑ってくれたらそれまでなのに、微笑なんだもの。ムンクだって、もっとギャーッと、「あ」の母音の口元であったならもうすこしあっさり見れたのに、微妙に「お」の母音の口元だから、引用元の推測範囲が広くなる。



読書会ではこの小説で語られる「引用」の感覚について複数の人が話題にされていましたが、わたしはこの小説をはじめて読んだとき、インドの言葉でいう「vasana(ヴァーサナー)」について語っている…と思い、驚きました。小説はぜんぜんインドっぽくないのに。
vasana(ヴァーサナー)というのはサンスクリット語で、わたしが訳すと「印象の刻み癖」という表現になります。
同じことをしたり同じ絵を見たり同じ映画を観たり、とにかく個人が複数なにか同じ状況にいたとして、それでも各自で自分の中に残す印象の刻み方は違っていて、いつか引用するようなことをする。こういうことをインドの哲学ではヴァーサナーといって、ひとつの意識のはたらきかたの「こころの動詞」のような感じで定義しています。
英語でも*1、単語の説明は以下のように長くなります。

an impression of the past action left on the mind which works as a seed for further action.

わたしはインド人の頭のよさには日々いろいろな角度で驚きなのですが、なかでもこの「vasana(ヴァーサナー)」をとっとと定義済みであるというのは、どういうことなのよ…。と。(この言葉は漢訳仏教では「薫習」と訳されています)
なのでこの小説を初めて読んだときに、とんでもなく感動しました。うーん、感動じゃないな…。なんというか、マッチング。


「今日も適当にそこそこ引用しつつ、そこそこ演じていこう」みたいな感覚も、"全面的に深刻になりすぎない" ためには大切なんですよね。


【おまけ】vasana(ヴァーサナー)についてはずーーーっと考えていて、2012年にも「よい結果を正確に刻むこと(vasanaの使い方)」というのを書いています。


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*1:The Lonavla Yoga Insutitute 出版「Siddhasiddhantapaddhatih」巻末Glossaryより