うちこのヨガ日記

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バラモンの精神界 ─ インド六派哲学の教典 訳・解説 湯田豊


インド六派哲学は、わたしの脳みそのレベルではあと5輪廻くらいしないと学べそうにない深遠な世界。
ヨーガに近いところから、サーンキヤヴェーダーンタニヤーヤヴァイシェーシカと見てきて、やっとミーマーンサーまできたぞというところで中村元先生の全集を読もうとしたら、ドでかい!(撃沈)
それでもなにか今の時点でミーマンサーの思想の根幹に触れられる書がないかと思って探していたところでこの本を見つけました。はじめは図書館で見つけたのですが、その内容のモダンさにおののき、即購入。1992年の本なので、この世界では新しめなのと、これはわたしの好みもあるかもしれませんが、途中で英語の感覚を挟んでいる感じがいい。現代の語感に近く感じます。
この本には、以下の6つの書の訳が収録されています。
ちょっと紹介と、サーンキヤミーマーンサーについてはわたしが楽しんだポイントを紹介します。



■「タルカ・バーシャー 弁証法の言語」
ケーシャヴァミシュラによって著わされたニヤーヤヴァイシェーシカ哲学の入門書。
「タルカ・バーシャー」は二つの学派の節を統合して体系立てようとした書だそうです。
ニヤーヤ・スートラ」と「ヴァイシェーシカ・スートラ」は中村元先生の全集で読むことができます。
ニヤーヤバーシュヤ(ニヤーヤバーシャー)」の第一篇は「論証学入門」として服部正明先生の訳が『バラモン教典 原始仏典』に収められています。
(「論証学入門」はまだこのブログで詳しく紹介していませんが、ずいぶん興奮して読んだメモが残されているので、そのうち紹介しますね)



■「カーリカーヴァリー」
ヴァイシュヴァナータによって著わされた、これもニヤーヤヴァイシェーシカ哲学の入門書。
先の「タルカ・バーシャー」がニヤーヤの説明に多くを割かれているのに対し、こちらはヴァイシェーシカの説明が多いという位置づけ。



■「サーンキヤ・カーリカー」
イーシュヴァラクリシュナによって著わされた書。
この本に収められた訳は、最もメジャーなガウダパーダの注釈を添えつつ、ほかの本にはない「第73節」が「Matharavrtti」という注釈書の中から添えられています。
訳語の感覚が新しく現代的です。たくさんあるなかからひとつ例をとると、第59節に出てくる「nartaki」「ranga」という語が「ダンサー」「舞台」と訳されています。
ここは時代感が出るおもしろい節なのですが

こんな具合です。わたしはギーターでもいろんな時代の訳を並べて読むのがひとつの楽しみなので、こんなことばかりしています。



■「ヨーガ・スートラ」
これはもう説明いらずかと思いますが、abhyasa が「トレーニング」と訳されており、現代的! ほかの訳もそうですが、湯田先生の訳は英語の感覚が途中で少し挟まった感じがします。
ヨーガ・スートラは書き下ろしでもなければパタンジャリという人物の定義もはっきり言い切れず、「パタンジャリ編集の書」という感じなので、とくに技術面の箇所はこれぐらい現代的な訳のほうがいいなと感じました。



■「アルタ・サングラハ」
ラウガークシ・バースカラによって著わされたミーマーンサーの綱要書・祭式の入門書。
ミーマーンサーは「プールヴァ・ミーマンサー」「ウッタラ・ミーマーンサー」の二つに大別されるのですが、この書は「プールヴァ・ミーマンサー」です。
この訳を読むだけでも、プールヴァ・ミーマンサーが言語と儀式とその主体についてどのように深堀りしていったのかがうかがえ、なかでも「語の効果を生むエネルギー」についての記述が興味深いです。訳者の湯田豊先生の説明では「ヴェーダのテクストの解釈学」とされています。



■「ヴェーダーンタ・サーラ(ヴェーダーンタの精髄)」
ダーナンダによって書かれたヴェーダーンタ哲学の入門書。ヴェーダーンタは以下の三つに大別されるのですが、この書は「シャンカラ系」です。

まえに「ヴェーダーンタ思想の展開」中村元 著 に収録されたヴェーダーンタ・サーラの訳の一部を紹介したことがあります。



インド六派哲学といっても、解脱やアートマンを掘り下げているのはヨーガとヴェーダーンタで、ほかの学派もそれぞれにシビれる視点があります。特にニヤーヤヴァイシェーシカは物理の研究のように人間のことを見ているのがおもしろいし、ミーマンサーは言葉と形式の身体論のようなおもしろさがある。
どれかひとつの学派だけでなく六派全部を知ることで深みが増幅する、深すぎる世界。果てしない山に登る感じですが、いますごく楽しく独学を続けられているので、この本を手元に置いておくだけで、すごく心強いです。