小説を読もうと思ったら映像化されていました。
新聞連載が1970年で、ドラマ化が1971年。人気だったんでしょうね。
脚本に井手俊郎さんのお名前があり、これは楽しみだと思って見ました。
商社マンの妻(専業主婦)が主人公で、世間一般から見ればお金に余裕のある人々の社宅団地での夫婦関係・親子関係・会社組織=家族ぐるみの人間関係が描かれていました。
このドラマをいま放映したら、視覚的にポップで可処分時間が多く見える主婦に憧れる女性が増えそう。
だけど以下が交換条件になります。
- インターネットも携帯電話もない
- 妻が外に働きに出るのは “訳あり” というムード
- 母が息子に「さん」付け。父親も息子も母親を見下している
- コンプライアンスの概念が薄く、人事情報が内示の段階で(正式発表前なのに)筒抜け
これに耐えるには夫を神と信じる意志が必要そう。
昔はそういう社会デザイン(前提)だったのか。
奥様たちの年齢は、おおむね30代。
主人公は身近な人から伝わってくる情報に振り回されて疑心暗鬼になり、どうしていいかわからずに失言しては、「自分には考えがない」「早とちりをした」と自責します。
一方で、表面上は大衆的に人付き合いをこなしながら家庭内の秘密を守り、子供の受験戦争を攻略していく人もいる。
家庭の事情の探り合いがサスペンス・コメディの体裁で進んでいきます。
こんなドラマでした。
ポップで軽快♪
以下の効果で楽しく見ることができました。ドラマは軽快です。
- BGMがおしゃれでムーディ。パヤッパー♪パヤッパー♪言うてる
- 主婦たちのファッションがキュート。膝スカートにハイソックス、ヘアスタイルやウィッグもかわいい
- 団地のインテリア、キッチン小物、ソファが昭和×ミッドセンチュリー♡
- 主人公の八千草薫さんが、デビュー当時の沢尻エリカさん似☆
- 主婦仲間の山岡久乃さん、冨士真奈美さん、うつみ宮土理さんがおもしろい
昭和の生活が視覚的に懐かしい
無駄なことをたくさんしているのだけど、なんだか楽しそうでもあります。
- お買い物かごで買い物に出かける
- たまに着物を着る
- お中元・お歳暮の慣習
- 新聞をとっている(しかも4誌)
- 小学生の子が牛乳配達をしている
- 人探しで電話をかけまくる
- 子のことで悩んだ親が学校の先生の自宅へ行く
- 酔って帰った父親が子供部屋で倒れて吐いて、子供が避難する
明るく熾烈な競争社会
以下は、こんなに前からこの競争社会の土壌が出来上がっていたのかと驚きました。
- 気軽に転勤できないと出世できない
- 学校や進学の情報を得る利点も踏まえてPTA役員をやる
- 家庭教師&越境受験で中学の時点から競争に勝ちに行こうとする
- 人事異動(転勤)の辞令情報が夫の帰宅よりも前に、よその奥さんから入ってくる
- 団地病でノイローゼになるという概念があり、リアルでSNSをやっているような相互監視
昭和の子育て環境がわかる
家族の世話が母に一任されて回るPDCAと、その中で母の内面が空洞化していく家庭内組織が細かく描かれています。
- 自然がいちばん。性教育なんて必要ないという価値観
- 息子が母親に「キチガイ!ヒステリー!」と言う
- 夫が「暇だな主婦は」「女ってよっぽど暇なんだな」と言う
- 妻・母が「本当にダメね、わたしって」とテヘペロすることで家族円満
この時代に慧眼だなと思った題材
当時からこの現実を入れてくるのはさすがだな、と思いながら見ました。
- 一人っ子が多い(すでに少子化)
- 男性の更年期の話をしている
- 妻がエネルギーを教育に注ぐことを「教育公害」と言っている
- 関西から来る人にガッツがあることを「阪僑(はんきょう)」と言っている
- ポルノの過激化と、歪んで入ってくる海外の性情報について、事実を共有する旅行話がある
- 90歳まで生きる想定で、夫が死に息子が結婚し一人になることに備えて株の運用をする主婦がいる
- 孤独でお金のある老婆と百貨店で知り合い、関わってしんどくなるエピソードがある
- ヤングケアラーを健気な努力家として美化する生徒に、教師が意識の切り分けを提示する
* * *
全体的に、自分の考えがない女性に対する厳しい目線がベースにあるように見え、したたかな主婦の描き方が鮮やかです。
固定化された立場から抜け出すには上品ぶってたらダメだという現実を突きつけてきます。
「なぜこの環境にいるといい奥様ぶりっ子をしてしまうのか」という問いの嵐。
課題提示は重いのに、音楽・美術・ファッションの効果で最終回まで見ちゃいました。