うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

異類婚姻譚 本谷有希子 著

この人は外で働きたくないのだから自分の言うこと聞くしかないのだし、とカジュアルに思っている男性と生活するのはつらい。この人は生活のために俺の尻拭いだってするだろう、するよね~、という前提の関係はつらい。表面上は仲良くできる。関係はつらい。でも好きは好き。一緒に居てラクだし、楽しいし、やっぱり仲良しだ! なんて夫婦はこの世にとても多いのではないかと思う。この小説はその感じが、ずんずんずんと迫ってくる。

 

序盤のエピソードにある近所の人と揉める夫の尻拭いをする妻の行動と、夫が結婚を決めるきっかけにつながっていたであろう妻の行動がとても印象に残る。従順さをがっちりプレゼンしてしまっている。これをやってしまったら、関係は固定されてしまうだろうよそりゃそうだろうよ。従順さのプレゼンはミニマムに抑えておけばいいものを。本当はどっちでもいいのに。絶対にあなたじゃなきゃだめってわけじゃないのに。このチームでなくてもいいのに。

主人公の主婦・サンちゃんの行動を追いながらわたしはずっと反省をしていた。そんな行動をすれば、そら夫にかわいがられちゃうよ。まるで忠犬ハチ公じゃないか。おおむね反省。なのに、同等に食い合うときの気持ちよい性描写には心のなかで「いいね!」の反応が起こった。たとえ演技であっても同等に食い合ってる感がばちっと決まったときの交渉の気持ちよさ、そこへ至る展開でここまでしっくりいく流れは過去に読んだことがない。

 

サンちゃんのいくつかの認識とそのような思考に至るプロセスの分解のしかたがとても親切で、安心したまま反省できた。読みながら何度か「狐になった奥様」という小説を想起した。あの物語の中の夫もこの物語の夫も、妻の忠誠を信じる力がとても強い。うらやましいくらいに強い。現実的な話をすると、妻に同等あるいはそれ以上の経済力があった場合には持ち得ない性質のものではないかとも思うけれど、現実はそうでもなかったりするのだから夫婦というのはまったくどうにも不思議なシステム。

異類婚姻譚

異類婚姻譚