うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

浮雲(映画・成瀬巳喜男監督 1955年)

原作小説が好きな作品の映画版を観ました。

この話って映像にするとこんなに陰鬱な感じになるのか……というくらい、最後は終戦帰国後の展開が重く印象に残りました。

だけどそれは、主役の男女を注視しすぎているから。

町では「東京ブギウギ」や「リンゴの唄」が流れています。周辺の生活者や子供たちの姿が視覚的に入ってくることで、引いた視点で見た世界には活気があります。

 

この物語は、富岡という男性のダメさ×ゆき子という女性のダルさ(森雅之×高峰秀子)、そしてそこに時代が絡んでくる展開がナマナマしく、戦時中に海外でうわついていた人が敗戦帰国後に自分が空っぽであったことに気づいていくお話。

戦前からガツガツした気性の人は戦後のムードを契機とばかりに一発当てに宗教ビジネスを立ち上げます。そこでがめつく教祖のようなことを始める伊庭という男は、義理の妹か姉にあたるゆき子を家庭内で強姦し続けていた過去がありますが、ちっとも気にしていません。

 

わたしは元々この原作小説が好きだったので、登場人物たちの人生のアップダウンに関わってくる要素のなかでは、特に「フランス領インドシナ時代」「新興宗教の館」のシーンを映像にしたらどうなるのだろうとワクワクしながら観ました。

さらに、伊香保温泉で出会う夫婦を加東大介×岡田茉莉子が演じていることで、期待を上回る印象というおまけ付き。

 

映画版では序盤で一瞬登場しただけの女中のニウも、目線だけでその不穏な感じが表現されていて、とにかく最後まで富岡の怠惰なプレイボーイっぷりをイライラしながら観続ける作品になっていました。

自分を追いかけてきて病に倒れて死にかけている女性に「元気になったら東京へ戻って職を探せ」と促す非道な疫病神っぷりも原作通り。

このだる~いカップルは悲観的に世界を見ているのだけど、市井の人々はハキハキ話し、地道に生活を構築しています。

5歳くらいの子供たちがままごと遊びをしている横のワンルーム・アパートで、大人たちがままごとのような恋愛をしている。ずるずるしたマインドで生きているとこうなるよという皮肉にも見えて、もともと長めの小説なのですが、2時間の映画で同じ感じをどっぷり味わいました。

 

▼映画はモノクロです


 

▼映画化は放浪記のほうがあとでした