すぐに読み終わるのに、濃い物語です。
彫り師たちによる仏像製作コンペの話です。
たったひとつのメッセージのために書かれたかのようであり、
たったひとつの感情を得るために書かれたかのようでもある。
この本は複数名で一緒に読みました。
物語についてあーだこーだ話しながら、
「これは凡人の苦脳を書いてる」
と、簡潔にみんなの思いをまとめてくれた人がいました。
「それね・・・」と、凡人の首を並べてうなずきました。
凡人は中途半端に自分を客観視する目を持っているから苦しい。
だけど苦しくないと「一般的に」「まともに」は生きられない。
数日後に、同じ読書会に参加していた人が
「あの話って、なんか、札幌ススキノ男性殺害事件を思い出しません?」
と言っていました。
確かに。その感じもある。
どうにも言葉にできない、すぐそこにある猟奇的な感情の存在を認める瞬間への理解。
すでに成人している子の暴走を止められない親の気持ち。
そういうことに想像力をはたらかせる。
坂口安吾の魅力は、「ありえない」とか「信じられない」という言葉のない世界のやさしさと狂気を、ワンパッケージで渡してくれるところにあるように思います。
精神的に完全に品行方正でなければ前向きな言葉を口にしてはいけないと感じさせる世の中で、一休宗純のような存在。
文体がオシャレでなければできないことです。
仏像を彫るコンペの話なんですけどね。