坂口安吾の小説は映画化もされているのでいつか観ようと思っているのだけど、映画『カンゾー先生』は今日ここに感想を書く2つの作品と『堕落論』の要素が混ざっているらしいので、二つ続けて読んでみました。
肝臓先生
最後までいい話で肩透かしでした。
あとで調べたら、実在の人物(静岡県伊東市の医師)をモデルにされているそうです。
この時代(終戦から2年後)の様子が数ヶ月前の日本と似ていて、料理飲食店禁止令というのが出ていたという話から始まります。
そこからこの世界に一気に連れていかれるのだけど、精神の風土の書き方が絶妙でたまりません。
漁師町のこの性格を知ることは、これから私が語る話に深い関係があるのである。彼らは心が正しいから、心のよこしまな人とつきあうことができる。どんな善良な人とでも、どんな邪悪な人とでも、つきあうことができるのである。
まったく伊東市は不思議な町だ。温泉町と漁師町と、まったく性格のアベコベのものが一しょになって、とにかく調和しているのである。温泉町では名士だの富豪だのと俗世の評価を後生大事に大さわぎをするが、漁師町では人間族があるだけのことだ。
この続きでリズムよく書かれる暮らしぶりの無駄のなさは、わたしが初めてインドへ行ったときに強く感じた謎のシステムそのもの。それを「心が正しい」と書いている。
体温がそのままの世界。あたたかさがわからなくなるほど自我を隠して、心が麻痺するような生き方はずるいよね。そういうところを、ガツンと突いてくる。
『ディア・ドクター』という映画を観たときの感覚を思い出しました。
行雲流水
でたー。わたしの好きなタイプのやつ! ソノ子ちゃんファンクラブを結成せねばならぬ勢いです。
どんなに周囲に白い目で見られようが蔑まれようが、わたしは全力でソノちゃんを支持する! わたしは坂口安吾の描く、諦念を軽やかに背負った女性が大好きです。
交換条件を腹に隠しながら同情だけを寄せてくる人への正直さも好きだし、お金を寄せてくる人に対して仕事をちゃんとやる誠実さも大好き。
この物語は僧侶のキャラクターもよくて、コメディとしてものすごく楽しめました。