昨年読んだ「戦争と一人の女」に続編があると知り、読みました。
同じ物語が相手側(女性側)の立場ではこういう状況であったということが書かれた物語で、続編というよりも対になっている短編小説。両方読むと、すごくおもしろい。
男から見て何を考えているかわからない女は、こんなことを考え、こんなふうに立ち回り、その都度こんな判断をしていたということが書かれている。ぎゃ。
まあそうよね。このくらいのことは理解してデータを集めてそれなりに立ち回っていますよね。そりゃね。
盛りを過ぎた男性が若い男性の前では絶対に見せない側面も、小さなコミュニティの中でこの女は淡々と受け止め、観察し、その嫌な部分を自分と重ね、でもまあそれはそれとして適当にひとまず若い男を愛す。
自分にとって住みにくい日本なんて戦争でめちゃくちゃになればいいさと思った人だって、そりゃあいたよね。カミュの「ペスト」にもそういう人の存在が描かれていたけれど、非常時のこういう側面を坂口安吾もうまく書くのね…。びっくり。
そんなあれこれを女はしっかり認識し、かつ、美しいものも見逃さずにいる。
男の覚悟といふものが、こんなに可愛いゝものだとは。男がいつもこんな覚悟をきめてゐるなら、私はいつもその男の可愛いゝ女でゐてやりたい。私は目をつぶつて考へた。特攻隊の若者もこんなに可愛いゝに相違ない。もつと可愛いゝに相違ない。どんな女がどんな風に可愛がつたり可愛がられたりしてゐるのだらう、と。
冷静だわ。「特攻隊の若者はもっとかわいいだろう」だなんて。
もっといい女を見つけたら取り替えようと思っている男。その男に対してかわいい女でいるなどという生産性のない振る舞いを、さてどこまで愉しんでおきましょうかねぇ、ああ暇だわ。とゆったり構える女。そして空襲が来ると、ちょっとがんばる。
無限ループで見ていたいほど正直な戦時中の恋愛。
女の本音をどこまでも知り抜いていたかのような書きっぷりがたまりません。