うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

天才・イチローを創った魔法の「言葉」 なぜ、この人はブレないのか 児玉光雄 著

イチローの引退会見をネット動画で見ました。その約1時間の会見のやりとりが、日本人同士のコミュニケーションの特性を丸ごとあぶり出すような内容で目も耳も釘付けになりました。「イチロー節」という文字列だけでは片づけられない、まるで山本七平の本を読んでいるときのようなドキドキ感。
ほんとうのことだけで返答が成り立つように話す人の選ぶ言葉・トーン・目線・しぐさ、すべてに注目が集まって、その「ほんとうのこと」に向き合う緊張に耐えられなくなった人から脱落していく。せめて尊師の目に留まりたい、こんなにあなたを慕っているその思いを伝えて尊師の記憶に残りたい、認められたい!認められたい!認められたい!
こんな紐づけはどうかとは思うけれど、あの様子から想起したのは、危険で目立つ仕事をさらに引き受けようとするテロリスト・チームの一員の心理。あこがれから思わず一歩多く踏み出してしてしまう感じは、こんな緊張からもたらされるのではないかと、ふとそんなことを思いました。


だいたい引退会見で聞くことといったら、決断のタイミングと理由とさまざまな節目で考えたこと以外にそんなにあるだろうか。そこでさらに時間を引き延ばすのは、聞くだけで気持ちよくなれる人生訓か励ましかプライベートの詮索、ハートフルな逸話、美談…。それをこの機に得ようと集まった人々にどう対応するかという場面で、ほんとうのこと以外はあまり多く語らずに会見を終わらせたイチロー。この人に限って雑な消費のされかたをしてほしくない! 思っていた人にとっては、ほっとする会見。でも、ドキドキする緊張感。


心を動かさないための訓練を詰んだ人の魅力は太陽の輝きよりも月の輝きのよう。ちょっと不気味で、ときに人を狂わせる。せめて爪痕を残したい人が、"ほんとうの返し" を受けて「お人柄が分かるお答え、ありがとうございます」なんて発言をしてしまう。あの質問者の最後の言葉を聞いた瞬間、息が止まりました。この人は今日質問をした人のなかで、一番目か二番目に多くサリンの袋に穴をあける人になりそう…と思わせる緊張の瞬間。人前でインタビューをする質問者というのは大変な仕事だなと思いながら見ました。
自分に人望がないことを自覚しているというイチローの発言は、こういう事態を防げない摂理を知っている、そこにリソースを割きたくないという意味を含んでいるのではないかな。人間の心の揺れ動きを、自分の心身を通してずっと観察してきたのではないかな。あとで本を読んで、そんなふうに思いました。


今日のタイトルの本はそのインタビューを見た数日後にブックオフで見つけました。なんと100円。ここで値上げをしていないブックオフはすごい。ブレてない。この本のサブタイトルのように、なぜブックオフはブレないのか。わたしがけっこう悩んで売りに行った10冊の本を180円でしれっと買い取るブックオフのブレなさよ! "いま" すごく価値のあるものではなく、"物質的に新しく" 生産されたものに価値を置いている。うちはアンティーク・ショップではないのでね、と。これはまさに、人望がないから監督という将来はない、というイチローのようなブレなさ。

 


前置きが長いですね。これの本は2011年に出た本です。イチローの本っていっぱいあるんですね。しかも同じ人がたくさん書いている。
過去のインタビューへの回答にスポーツ心理学者のかたが解説を付けた内容です。イチローの言葉(回答フレーズ)にいくつかとてもおもしろいものがありましたが、一貫して見えるのは、外部要因についてはコントロールできない場合もあると見切って、内部要因のコントロールに練習も思考も割いていること。そしてそのなかに工夫がたくさんあること。小さな積み重ねを続ける工夫を心の中でたくさん試して、うまくいく方法を探し続けている。金魚を見てリラックスしてる。

メンタルが引き起こす肉体への影響について触れられたコメントもあります。
イチローは心身のメンテナンスについて語られることが多いけれど、一番バッターで足も使ってヒットにする。ベースを駆け抜けるまでがバッティング。そういう職種だと思うと、調整事項の多いたいへんな仕事です。


わたしはインタビューの前後の立ち姿と脊柱起立筋と脚の太さから伝わるメッセージがとにかく感動的だったのですが、ほんとうのことだけで成り立つように毎日を生きる、そういうことについて考えたくなりました。