うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

エル ELLE(映画)


わたしの友人に、塾で講師として長く働いていたために「親からぶつけられる、隠しているつもりだけどどうにも隠しきれない怒り」に対する耐性だけが異様に開発されてしまっている人がいる。
「できないのは、おまえのせいだ」と心の中で言われることに慣れてしまうというのはなんだかすごいメンタルなのだけど、ほかの面では意外にもシュゥ…としぼんだようになる。なんでこんなにメンタルの強い人が福山雅治の結婚で落ち込むのか、わたしにしてみるとさっぱりわけがわからない。でも人間の魅力って、こういうわからなさにあるのだと思う。
この映画には、そのわからなさによる魔力がギュウギュウに詰まっていて、驚いた。この方向でのサスペンスははじめて。


先の友人のように、ある特定の方向に対して心が動くできごとが発生したときに、ジュッと心の火に水をかけて一瞬で消してしまうような、そういう面を見せる人にわたしは色気を感じる。経験持ってるな、信用できそうだな。と思う。
中年といわれる年齢になってそれがひとつもない人には魅力を感じないと言ってもいいくらい、わたしは全方位的な能天気さを見せる人を警戒したりするのだけど、この映画の登場人物には能天気さをもった人がひとりもいなくて、すべての人がちゃんと狂っている。おかしい。イカれているという方向でおかしい。なので社会的にも倫理的にも信用できないのだけど、どこか、信用したいと思わせる "魔力" がある。


決して安心できない。人生は、決して安心できない。ぜんぜん安心できない。
この主人公は、強いというのとは、ちょっとちがう。圧倒的にいじめ耐性という能力だけが開発されきってしまっている。もう天井を越えている。いろんな出来事が起こるし、起こす。でもきっと、彼女にとってすべてのことは、こんな気持ちの範囲を超えていなかったのではないだろうか。



 あなたが傷つけたいと思っているわたしの心はとっくに死んでいますが、
 それでも傷つけたいですか。
 ああ、そうですか。まだやりますか。
 あなたも、すきねぇ。



このわりきりが、こわい。
そしてときおり見せる



 反応してさしあげれば、よろしいか?
 しないほうが、興奮する? どっち?



が、強烈にこわい。
これはいわゆる「胸くそ悪い系」にもカテゴライズされそうな映画ではあるのだけど、二度と観たくない、とはならない。むしろ確認のためにもう一度観たい。
こんなに心がぐちゃぐちゃにかき回されたのに、なぜか元気になっているわたし。主人公のおしゃれさも、わたしに勇気をくれた。とんでもない事態に対応しているその日も、コートの着こなしがすてき。ひどい目に遭っているのに、今日も私服はガーリー。孫が産まれるという日も、どこかガーリー。



この映画は友人に誘われて行ったのだけど、そのあと何時間も「あの場面のあれは、どういうことと理解した?」という話が断続的に続いた。
友人はこの映画をかなり下調べしていて、だれかと行きたいと決めていたそう。なるほどと思った。「ゴーン・ガール」って一人で観るとけっこうきついと思うのだけど、それと同じ感じ。もし誰かといけるなら、「これは、わざと?」とか「あれは、ギャグなのか」などの疑問を共有できる人がいたほうが楽しい映画。
帰りに本屋に立ち寄って、原作本を買って帰りました。


▼今日紹介した映画