うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 本谷有希子 著


身近な人が怖い。家族が怖い。親族が怖い。この恐怖の描写はすごい。
話がおもしろい。どうしてこんな設定と展開を思い浮かぶのだろう。マンガのようでマンガでない。
思い込みという怖さでいったら江戸川乱歩の怖さと似ているのだけど、勢いはタランティーノの映画のよう。情景があまりにも目に浮かびやすい日本の田舎の日常で、目に浮かぶからなおさら怖い。昔話じゃないのだからめちゃくちゃ怖い。
どこまでが計算なのだろう…、って、どこまでも計算なのだろうけど、これは間違いか? とひっかかりつつ人物の視点が恐怖でめちゃめちゃにされていく流れに巻き込まれていく。

 テーブルと椅子の脚に視界をさえぎられながら、少女は固唾を呑み出入り口を睨んだ。
 暖簾を乱雑にかきわけ台所に踏み入ってきた人物が、先客に気付く様子もなく冷蔵庫を開ける。頼りなげな黄色い光が辺りを照らし出したが、少女は視界を制限された少女が人物の腰から上を確認することができなかった。

ここからどんどん怖くなっていく。最後までいっきに読まされちゃう。


家庭内で起こる、身近な人の頭の中がちょっと怖いことになっている現実を、着こなしで知ってしまう瞬間の恐怖もリアル。
家族が短い靴下にサンダルを履いているのだと思っていたらそうでなはかったことに気づいたときのショックの描写では爆笑。もうこの靴下の展開を読むだけで、お笑いライブへ行くのと同等の価値があるといってもいいくらい。
こんな怖い話が、ときに吹きだす笑いとともに読めてしまう構成というのはどういうことだろう。
こんなすごい小説だとは知らずに読んだので、ほかの作品もどんどん読みたくなっています。


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