うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

作家の収支 森博嗣 著


印税の料率など作家になって稼ぎたい人が参照する部分はさておき、この本はインストラクターの資格は取ったけど、さて…と思っている人に、すごくおすすめです。
わたしはたまにセラピストやインストラクターの資格をとった人から相談を受けるのですが、「場と価格を設定して世に出さないと分母も分子も決まらない。考えているうちは幻想の時間」ということを話すのに1時間くらいかかることがあります。
この本は「小説を書くこと」が事例で、アクションを起こすたびにこういうことが見えたという例を細かく明示してあり、さらに「書く以外の行動を広告宣伝費と捉えるたときに、どうか」ということまで書かれています。
小説家なんてまったく縁遠い世界の話かと思いきや、「いったい誰が得をするのかよくわからないイベント」についての捉えかたなど、具体的に参考になる箇所もありました。


冒頭にインストラクターを目指す人におすすめと書いた理由ですが、わたしは誰かとなにかを行うときに「考え方の順番が逆では?」と思うことがあったら自分なりに流れを紐解いておいて、一度は相手に合わせつつやるけど、予測どおりであれば次回はやらないようにしています。経験を重ねるごとに判断基準や継続意欲を削ぐ要件を自分の中で明確にしていくことは、そのまま自分を知ることになる。
以下は、わたしも日々同じように感じるところ。

「好きだから」という理由で書いている人は、好きでなくなったときにスランプになる。「自慢できる」仕事だと思っている人は、批判を受けるとやる気がなくなる。つまり、そういった感情的な動機だけに支えられていると、感情によって書けなくなることがある、ということのようだ。
(「スランプに陥らないためには?」より)

好きなものほど、できなくなりたくないから、そうならないようにいろいろ考えます。



以下も、うなずきながら読みました。

素人作家に、それができるように、実はプロの人気作家にだって同じことができるのである。
(「ネットはアマチュアだけのものではない」より)

公園で「ワンコインヨガ」をやっていたとして、同じ公園で有名なインストラクターが「わたしもここでワンコインヨガやります」って言ったら、どうする? どうなる? そういうことだと思うのです。



この本の終盤には「自分を大きくも小さく見積もるな」ということが書かれていて、その条件として

自分の力を測り、また、その力をさらに磨いていくことが大切である。
(「創作は情報ではない」より)

とあります。こんなことを説いてくれる本は、なかなかないと思います。



そしてなにより、こういう感じがいい。

作家としては、増刷は不労所得だと書いたが、それ以上に、「出版社に損をさせなかった」とほっとするのが増刷、ともいえる。
(「大半の本は赤字である」より)

感覚的に稼ぎ散らかすのではなく、関わった人に必ずや収益がないと申し訳ない、という気持がある。
この状況がどうやって成立し続けられているのか、という視点を忘れないところがすてきです。


わたしは「関わった人が幸せになることにこだわると、関わる相手にもこだわるようになる」という循環がいまの充実感の太い幹のようになっているのですが、仕事って、他人を信じるきっかけをつくってくれる営みなんですよね。
「やりがいのある仕事」という幻想』という本もかなりよかったですが、この本はさらによいです。


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