うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

わたしを離さないで カズオ・イシグロ 著


ずっとほのめかされる回想トーンの語りが独特で、じわじわと状況が明かされつつ、その運命を受け入れるために「知ろうとする人」「信じようとする人」の価値観が絡み合う。
ときおり「自分の人生を生きているなぁと思うときって、こんなときかも」と思う描写がズドンと響く。中盤に、こんな場面がある。

 いま、あのときのことを思い出すと、胸に暖かさと懐かしさが込み上げてきます。小さな裏通りにトミーと一緒に立ち、これからテープ探しを始めようとしたあの瞬間、突然、世界の手触りが優しくなりました。

「世界の手触りが優しくなる」という感じは、「生まれてきたことを歓迎されていなくない」と感じられるときに似ているかもしれない。
たとえ仕事で必要とされようが誰かに必要とされようが、「必要という人にとって都合がよい」ことが存在肯定の下敷きになっている現実を見たら、こういう感情が沸く瞬間だけが「生きている」と感じられる瞬間だ。


ずっと考えずにいようとしていたことに向き合わされた気分になる小説でした。


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