うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

光の当てかた、浴びかたいろいろ

先日銀座でお会いした人が、「丸の内線から銀座線に向かってくるところに夏目漱石の文章があって、立ち止まっちゃいました。朝日新聞に入社するときの文章でした」とおっしゃる。気になったので帰ってから青空文庫で文章を読み、そのあと朝日新聞のサイトも見ました。
朝日新聞で「それから」を連載しているんですね。


林先生の「入社の辞」の解説も、「それから」の解説も、「うん、うん」と楽しく見ましたが、この「入社の辞」について「地位や名誉を捨て、いまでいうベンチャー企業へ行くような選択をした」というところに強く光を当てるのは、いまの社会のトーンなのかな。
夏目漱石の小説はどの作品もそうだけど、一義的な見え方にならないように書かれています。
この入社の辞も、しっかり



 お金



のことが書かれてる。
「子供5人いて家賃も払ってあの給料って、いくら地位と名誉があってもなー」
って。さまざまなユーモアの中に交えてちゃんとそこも書かれている。全方位的にハラオチする内容で、球体のよう。年棒まで公開してる。
裏側から光を当てれば、「いくら伝統とブランド力があっても、生活に苦労するような労働量・給料の支払いだったら、その雇用主はブラックでしょ」とも見える。
いまだったら、むしろこの状況で名誉(帝国大学に残る)のほうを取ったら、もっと美談になるんじゃないの? なんてことも考える。
五人の子供を持って、家賃が高くて、本業の大学のほかに2・3軒の学校を掛け持ちして、小説も書いて、トリプルワークでなんとかやっていた。ってことのほうが驚き。


夏目漱石の小説は「お金で人の心をコントロールしようとするパワーバランス戦争」や「お金を目的とした、キープ・イン・タッチな人間関係」が多く登場します。
なので、「美文ですよ。名作ですよ」といってすすめるよりも、「日常にある人間のせこい心の駆け引きを、あそこまでわんこそばみたいに出してくる小説家はいないよぉ〜」っていったほうが読みたくなる気がするんだけど、どうかな。



この写真は表参道の地下鉄にあった広告です。