うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。 本田哲也・田端信太郎 著


事例が最新なので、コラムっぽく読めます。
広告業界の人の洗練されたプレゼンを書籍化したような内容なので、地方の賢人が「とりあえずソーシャルでうんぬん……〜」という上司に困っているときに、「これ読みましたぁ?」なんて言いながら "いま" 手渡すのに最適な本です。最後のまとめ方にもちょっとオジサンのこころをくすぐるような要素が入っていて、ほんとうにそういう若者を救済するために書かれているのではないかしら。なんて思いながら読みました。
目的と技をコーディネートできる人が少ないので広告代理店があるといえばそれまでなのですが、いまは素人でも技がつかえればそこそこプロモーションもできる時代。でも企業で広告予算の承認をするのは、このへんの技の活きかたの妙味や境界のわからない人が多い。そういう現場の橋渡しになりそうな本です。


最後のほうで、こんなアドバイスがあります。

避けたいのは、「できるだけたくさんの人に……」などと規模を曖昧にすることと、「あわよくば買っていただければということで……」など期待する行動を曖昧にすることだ。ここはしっかりと、かつ現実的に、目的と目標を明確化しておこう。
(230ページ)

こういう本には必ず書かれる当たり前のこと。わたしは仕事でもプライベートでも「〜に越したことはない」という表現を多用する人に近づかないようにしています。思考に主体性がないと、結局なにやってもダメなので。


インサイト」についてのこの指摘も、とても重要と思いました。

「何かをする理由(楽しいから、必要だからなど)」よりも、「何かをしない理由」のほうに本音が隠されていることのほうが多い。(231ページ)

わたしは移動が多いため、かなりあちこちのヨガ教室へ行きますが「これは、もう行かないな」という理由があると、それが自分の講座の構成につながったりします。「練習に通いやすい理由」って、実はあんまりアグレッシブなものではないと思っています。




そんな話はさておき、この本の読みどころは、やはり事例の連発でしょう。
Part2でひたすらあげられた事例をPart3でまとめてあるのですが、書いていあることは普遍的なこと。Part2にあった「サロネーゼ」「皇居マラソン」のあたりは身近に感じます。事例に「バチカン市国」があるのもおもしろい。
バチカンの事例のあとに「信仰心」「コミュニケーション欲求」などの要素を挙げ、

 メディアや広告などの伝達方法はあえて何も考えずに、「動かす人の規模と心理」という側面だけで考えれば、こうして見えてくる法則もある。(198ページ)

とまとめるところが、おもしろい。その事例、宗教そのまんまだよ!




サロネーゼの事例のあたりでの分析は

このレベルで人を動かす「心」とはどのようなものか。それをあえて一言でいえば、「社会との関わりで発生する気持ち」だろう。「虚栄心」や「羨望感」などがそうだ。(195ページ)

と、あっさり。あっさりはいいのだけど、重要なのは「このレベル」というスケールを人口で分けているところ。




この本は2名の共著で、片方がLINE株式会社の人なのだけど、

じつは人と人とのコミュニケーションはくだらなくて、意味のないやりとりが大半を占めている。その点にフォーカスを当てたからこそ、ここまで急成長できたように思います。(176ページ)

と振り返っています。意味のなさにフォーカスを当てなければ「スタンプ」による成長は生れてこない。コミュニケーションはくだらないといいながら、くだらなさを快適にしようというアクションは、とても創造的。視覚って、いちばん心根に近い感情(チッタ)が動くところだもんなぁ。




だらだら続く対話のなかには、ちょっと毒もあっておもしろい。

(ハロウィンの浸透について)
田端 本当に盆踊りのノリだ! ますます夏祭りっぽくなってきてますね。
本田 職場でのハロウィン活動を見ていると「俺たちはブラック企業じゃないぜ!」というアピールも込められている(笑)
田端 それすごいわかる(笑)。「ものわかりが良くて愉快な会社」という撒き餌を一生懸命撒いてますよね。「恋するフォーチュンクッキー」の動画で企業のブランドイメージをアップしようと画策するのと、考え方としては似ている。
(160ページ)

痛快!



(サロネーゼとカリスマ添乗員についての流れの一部)
田端 「VERY」を読むたびに思うのは専業主婦をやっている人の "専業主婦意外" への肩書きに対する羨傍観なんです。どこか浮世離れしているというか、ふわっとしているその反動なのか、ただの主婦だと思われたくないというプレッシャーがすごい。
本田 主婦だって大変だけど、仕事をかかえて「ワーキングウーマン」と呼ばれるには、ホントに就職しなくちゃいけない。その意味でいうと、サロネーゼは非常に程良い頃合いですよね。
(124ページ)

サロネーゼになろうと思って行動する人のおかげで、短時間でとれるディプロマ商品というビジネスが発生している。わたしはこのあたりについては、ソーシャル・ゲームと似たものを感じています。




この本は具体的な数字もたくさん盛り込まれていて、ヨガもありましたよ。

ヨガは2015年に国内約450万人に達するといわれていますが、男性でハマっている人は少数派。(142ページ)

ソースの記載がなかったのですが、どういう基準なんだろう。ヨガジャーナルの媒体資料を見ると発行部数が6万5千部らしいので、雑誌を買うほどハマる人は1.4%という計算になる。発行部数=売れた数ではないので、パーセンテージはもっと下がる。雑誌を買う人ってほんと一部なのね。てことか。



哲学色がほとんどないので、経験ノウハウ本というよりは、最新トレンドをおもしろく読める本でした。俺はこの道を極めてるぜ、というスタンスではなく、「このときは、こういう流れでこうなった」というスタンスがよいです。実際、そういうものだと思うので。


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