うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

怪談 ラフカディオ・ハーン 著 / 繁尾久(翻訳)


たまには季節に合った本を紹介しましょう。ふたつのきっかけがあって、読みました。
有名な「耳なし芳一」「雪女」などが収録されている、いろんな出版社から出ている短編集です。わたしが買ったのは集英社文庫で、装丁のイラストが大変気に入りました。中身はすごいのに持っているとウキウキする(笑)。


<きっかけその1>
東大で小泉八雲先生の後任として夏目漱石先生が就任しているので、ラフカディオ・ハーンさん(小泉八雲先生)はグルジの小説によく出てくる。

「僕のも大分神秘的で、故小泉八雲先生に話したら非常に受けるのだが、惜しい事に先生は永眠されたから、実のところ話す張合もないんだが、せっかくだから打ち開けるよ。その代りしまいまで謹聴しなくっちゃいけないよ」(吾輩は猫である


赤門をはいって、二人で池の周囲を散歩した。その時ポンチ絵の男は、死んだ小泉八雲先生は教員控室へはいるのがきらいで講義がすむといつでもこの周囲をぐるぐる回って歩いたんだと、あたかも小泉先生に教わったようなことを言った。(三四郎

<きっかけその2>
東京と関西で「バガヴァッド・ギーターをうなりながらタテノリで読む会」というのを不定期で開催しているのですが、以下の8章6節を選んだ人が、この短編集に収められている「はかりごと」を想起されていました。

(バガヴァッド・ギーター 8章6節)
誰でも肉体を脱ぎ捨てるとき
心で憶念している状態に必ず移るのだ
クンティーの息子よ これが自然の法則
常に思っていることが死時に心に浮かぶ
田中嫺玉 訳

選定した本人はラフカディオ・ハーンの作品であることはわからず、ストーリーをお話されていました。それを聞いたほかの参加者さんが「その話、これではないですか?」と覚えていて、あとで作品を調べて教えてくれました。



そんなこんなで読んでみたのですが、「はかりごと」は名作ですね。「鏡と鐘」「食人鬼」も好きです。
「はかりごと」を読むためだけに買う価値のある本ですが、せっかくなので「鏡と鐘」「食人鬼」から一部引用紹介します。

<「鏡と鐘」より>
 怒りを抱いて死ぬ人、怒りのうちにみずからの命を絶つ人、かかる人がいまわのきわに念じること、あるいは誓うことは、摩訶不思議な力をはたらかせるという。

(中略)

 さて、ある種の精神作用による玄妙な力について、昔から日本には奇妙な信仰がある。それは、「なぞらえる」という動詞で、いいつくせはしないけど、それとなくわかる力である。この「なぞらえる」という語自体も適当な英語の訳語は見当たらない。それというのも、この語は信仰にもとづく多くの宗教的行為に関係があるのはもとより、さまざまな模倣的魔術などに用いられているからである。辞書によれば、「なぞらえる」の通常の意味は、「まねをする」、「くらべる」、「似せる」などであるけれど、密教における意味は、「ある魔法的もしくは奇蹟的結果をもたらすために、想像のなかで、ある物体または行為を、別の物体または行為で代用させること」となる。

子供のころに読んだらガクブルする話も、大人になるとまた別の部分が刺さる。こういう深層心理に迫る描写がたまらない。



<「食人鬼」より>
わしが引導をわたし、経をあげておりましたのは、ただ役目としてだけのくりかえしでござった。常々、ただ僧職の役目から得ることができる衣食のことのみに心を奪われておりましたのじゃ。

魂を込めて仕事をしていなかった僧侶が食人鬼に転生する話なのですが、この吐露の場面はかなりグッときます。



最後に。
後の解説に奥様の記された「思い出の記」の引用があるのですが、このご夫婦はとても素敵です。(へルン、はハーン先生)

耳なし芳一」を書いていますときのことでした。日が暮れてもランプをつけていません。私はふすまを開けないで次の間から、小さい声で、芳一芳一と呼んで見ました。『はい、私は盲目です。あなたはどなたでございますか』と内からいって、それで黙っているのでございます。いつも、こんな調子で、何か書いているときには、そのことばかりに夢中になっていました。またこの時分私は外出したおみやげに、盲法師の琵琶を弾じている博多人形を買って帰りまして、そっと知らぬ顔で、机の上に置きますと、ヘルンはそれを見るとすぐ『やあ、芳一』といって、待っている人にでも遭ったという風で大喜びでございました。

ラフカディオ・ハーンさんは40歳で日本にやってきてすぐ結婚しています。奥さんは若いにしても、かなりかわいい中年カップル。ほっこりするわー。もー。
夏らしい読書を、あなたもぜひに〜


怪談 (集英社文庫)
怪談 (集英社文庫)
posted with amazlet at 14.08.01
ラフカディオ ハーン
集英社