うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

幸福に生きる知恵 宇野千代 著

この本は、冒頭が「私は、今年の秋、九十六歳になります。」の文章から始まります。前回ご紹介した「私は夢を見るのが上手」が95歳のときの本なので、同じ頃ですね。宇野さんの本は息抜き的な読書にいいので、読んだことがないものが古本屋にあれば「買い」な著者さん。ここでも何冊も紹介しています。(末尾にリンクをつけておきます)
わたしは普段、「どうせ夜には汗だくになるし」とか、「高いヒールで無駄な筋力は使いたくない」とか、「これでは片方の肩に比重がかかりすぎる」とか、おしゃれよりもそんなことをつい優先してしまったりするのですが、宇野さんの本を読んでいると「おしゃれ気分を楽しむ」ことって大切だよなぁ、と思い直します。

今回も、半分は「恋バナ」です(笑)。ではでは、まいりましょう。

<冒頭より>
 私は、今年の秋、九十六歳になります。若い頃には、自分でもこんなに長生きができるなどとは思ってもゐませんでした。ただ、毎日いつでも、どこでも、自分流の愉しみを見つけ出しながら暮らしてゐるうちに、九十六年があっと云う間にたってしまったのです。自分流の愉しみを見つけるなどと言ふとなんだか堅苦しく聞こえますが、種明かしをすれば簡単なのです。
 その秘密をお教えしましょうか。それは、どんな生活をしてゐるときでも、その時の生活を、これは愉しい生活だ、と自分に思い込ませることです。人から見たら、まあ可哀相だとか、なんて気の毒なんでしょう、と思われる生活の時でも、人間は心の持ち方一つで幸福になったり、不幸になったりするからです。

いつも、おっしゃってます。

<18ページ 仕合わせな気持になる より>
昔は一にも二にも美男子が好きでしたが、いまは、その美男子と言うことの、基準が違うようになりました。いまは、顔つきや姿容の美しさよりも、どことなく心の優しい人が好きになりましたように思います。そして何よりもその人が、仕事に一生懸命打込んでいる姿を見ると、素晴しいなぁ、と思うのです。

どんなに美男子でも仕事っぷりがダメだと、ダメだねぇ。という点で、わたしも同感。

<24ページ 大好きなお洒落 より>
 こんな私でも昔は、一緒に暮らした男の好みによって、銀杏返しに結って粋な縞の着物を着たり、珍しいマントを着て、ハイカラな洋服で飛び歩いたりした時代もありました。
 しかし、いまは、男の人も、さっぱりした、心の優しい人が好きになりました。

インドで仲良くなった香港の女の子がこんな彼氏が欲しいというタイプを「シャンティな男」と表現していて、おおなんと正しい「シャンティ」の使い方! と感動したことがあるのだけど、宇野さんも同じ感じなのかな。

<65ページ 豊かな愛情のもとで育った 東郷たまみさん◎画家 より>
 東郷たまみさんは、昭和五十三年に亡くなった画家東郷青児の一人娘で、現在、女流画家として活躍しています。
 ご存じの方も多いと思いますが、東郷と私とは、昭和五年から約五年間、夫婦同然に暮らしていました。私たち別れる直接のきっかけとなったのは、東郷が、街で偶然、元恋人だった盈子さんと出会い、愛が再燃したからでした。
(中略)
二人は、今度は正式に結婚し、昭和十四年、可愛らしい女の子をもうけました。それが、たまみさんです。
(中略)
 たまみさんは、ある時、人から「父親と恋愛していた女性と、よく平気でつきあえますね」といわれたそうです。彼女はすかさず「私は、父が一時期でも宇野先生と恋愛していたことを誇りに思っているのですよ」と答えたと聞いています。
 その言葉は、とてもうれしかったです。

素敵な関係ですよね。

<91ページ 人を喜ばす天才 瀬戸内寂聴さん◎作家 より>
こう考えてみると瀬戸内さんは、宗教家にもってこいの性格なのですね。出家すると聞いた時、ちょっと理解できなくて、心の中で反対した私ですが、今では、彼女にふさわしい人生だと心から思っています。
 だって、今の顔、本当に晴々していい顔ですもの。以前は、ちょっと心配したような顔をしていました。
 活きた車海老を送ってくれて、私がお礼の電話で「何だか食べるのがかわいそうみたいねぇ」と言うと、「大丈夫ですよ、先生。迷わず成仏するように、私がちゃんとお経をあげておきましたから」とすまして言う瀬戸内さん。明るくて、ユーモアのある素晴らしい庵主さまです。

この坊主ギャグ、ずるいよなー(笑)。

<100ページ 人への思いやりの秘訣 七 より>
(著書内からの抜粋集の章です カッコ内が著書及びコラム名)

 誰の心の中にも、自尊心と言うものは隠れている。この自尊心があるために、人と人との関係が、何となく、ぎくしゃくすることがある。自尊心と言うものが隠れている間は、何事も起こらないのに、一たび、ちょっとでも頭をもたげて来ると、面倒なことが起る。自尊心をちょっとどこかへ隠す、と言うのは、何と言う便利なことであろうか。
(忙しい)


 人間同士のつき合いは、この心の伝染、心の反射が全部である。何を好んで、不幸な気持の伝染、不幸な気持の反射を願うものがあるか。幸福は幸福を呼ぶ。幸福は自分の心にも反射するが、また、多くの人の心にも反射する。
(生きて行く・下)


 男と女が或年月の間一緒に暮らしている間には、当人同士はまるで自覚していないのに、根本的とも思われる影響をうけるものです。
(願望)

いっこめ:「自尊心をちょっとどこかへ隠す」ってそれ、スピード瞑想! すごいな宇野スワミ。
ふたつめ:わたしもねぇ、噂話がいやです。そうなる展開のメンバーの飲み会は絶対行かないし。
みっつめ:そして時がたち、受けた根本的な影響が自分の本質に合っていなかったことに気づくのって、けっこうおもしろい。生まれながらに向いていたことを、逆に発見したりするしね。

<126ページ 絶世の美少年 今 東光さん◎作家・僧侶 より>
 ある時、いつものように私が料理を客に運んでいると、一人の青年がつかつかと近寄ってきて、僕の友人が君に興味を持っているのだが、会ってやってくれないか、というのです。私は、突然のことできょとんとしましたが、その青年の表情があまりに真面目なので、断りきれず、承知しました。その晩、指示された通りに東大の赤門前に行ってみると、店で何度か顔を見たことのある色白の美しい青年が私を待っていました。それが、今東光さんだったのです。
(中略)
 今さんは、その日から毎晩のように店にやって来て、私の仕事の終わるのを待ち、家まで送ってくれました。その頃の私は、駕籠町にあった髪結いの二階に下宿していたのですが、燕楽軒(給仕女として働いていた西洋料理店のこと)から下宿までの道のりがあっという間に過ぎたもでした。それが今さんと私のデートでした。
(中略)
 ちなみに、今さんの気持を私に伝えにきたあの時の青年が東郷青児で、後年、私は、この東郷と同居するのですから、不思議な気持ちがします。

今東光さんのお名前を、瀬戸内寂聴さんを法弟として得度させた人(参考「寂聴 天台寺好日」)として知っていたので、こんなラブな逸話があったとは、驚き。しかも、いじらしいぃぃぃ。

<240ページ 巻末エッセイ 宇野先生との三十六年 藤江淳子 より>
借金があっても生活の質を落とそうとなさらなかったのも印象に残っています。麻雀などで、お客様がいらっしゃると私たちお手伝いの者がお食事の用意をするわけですが、先生は「とびきりおいしいのを作ってね」と、私たちに注文を出します。おかず代を少々削ってもいくらにもならない、それより、楽しく遊んで、美味しいものを食べて、また一生懸命働けばいいじゃないのと先生は考えます。生活費を少しずつ節約してお金を残すのではなくて、たくさん仕事をしてお金を得る、というのが先生流でした。

「また一生懸命働けばいいじゃないの」って、ほんとそうですよ。「食べていけなくなる」みたいな表現を耳にすると「食べなきゃいいよね!」って思う。たまに断食すると、胃が喜ぶから。


今回も、奔放で豪快でラブリー。宇野さん節、炸裂でした。


▼おまけ 宇野さんネタ登場の本
寂聴・猛の強く生きる心 梅原猛/瀬戸内寂聴

幸福に生きる知恵 (講談社文庫)
宇野 千代
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★おまけ:宇野千代さんについては過去に読んだ本の「本棚リンク集」を作っておきました。いまのあなたにグッとくる一冊を見つけてください。