うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

映画『スティーブ・ジョブズ』(2013年版/2015年版)

今年の春にコルカタへ旅行した際にパラマハンサ・ヨガナンダの生家の前を通ったのをきっかけに、著書『あるヨギの自叙伝』を再読しました。

知人にその話をしたら、「スティーブ・ジョブズiPad に唯一入っていた本ね!」と言われ、今はそのような逸話から知られる本になっているのかと思い、映画を観ました。

 

ジョブズ氏が70年代にインド放浪をしていたことやLSDを肯定していることは知っていたけれど、それを知ったのは iPod(パッドでなく、ポッド)の時代で、創始者のジョブ氏が一度追い出された Apple に復活し、再び大活躍をしている時代でした。

(ずいぶんわたしも長生きをしてる w

 

スティーブ・ジョブズ氏が亡くなってから、はや13年。わたしもいろんなことを忘れています。

そこでヤマザキマリさんの漫画を読みはじめたらおもしろくて止まらなくなり、3巻まで読んだところで、こりゃ最終的に公式の原作自伝を読むことになるな・・・と思い、その前に映画を観ることにしました。

 ↑

このマンガからまんまと沼にハマり、2本ある映画をそれぞれ何度か観ました。

わたしは2015年版→2013年版の順に観たのですが、ここでは制作年順に感想を書きます。

 

 

2013年版:アシュトン・カッチャー主演

 

70年代のアメリカの空気感が好きな人にはたまらないおもしろさです!

後年のバージョンの映画の評価のほうが高く見えますが、わたしが知りかった大学時代のモラトリアムの様子が描かれていました。

登場シーンがいきなり大学構内での友人との会話「ラムダスの  “ビー・ヒア・ナウ”  は読んだ?」(参考)という場面で、仲間と麦畑でLSDを経験するエピソードやインド放浪シーンもしっかりあって、音楽もその時代を纏っていて、特に序盤はおしゃれなヒッピー・ロード・ムービーです。

 

マイク・マークラという投資家が初めてジョブズ氏に会った際に「まるでミニ・マンソン・ファミリーだな」と言うのですが、それがその後ある種カルト的と言われるほど高品質デザインを追求することになる “ジョブズ教祖の Apple ” を予言するセリフになっていておもしろいです。

ロバート・マーティン・フリードランドという人物が一瞬だけ、ジョブズ氏にとって初めて身近で影響を受けたイカした先輩として存在感を放つ場面もあります。公式自伝では、インドでニーム・カロリ・ババに会わなかったジョブズ氏がアメリカに帰国してから最初に目をつけた教祖的存在であったことが、一緒に渡印した友人によって証言されています。

(ちなみに2015年版の映画はこの友人コトケ氏への怒りを爆発させる場面から始まっています)

 

この2013年版は、前かがみのちょっと神経症的にも見える歩き方の完コピ度がすごいのと、ドライブ中に絶叫する場面が実際に絶叫療法をやっていたことを示していたり、ジョブズ氏が取り入れてきたセラピーの要素も織り込まれています。

 

一度追い出された Apple に戻ってからマイク・マークラ氏に対して行った仕打ちは公式自伝と違っていて冷酷さを強調し過ぎにも見えましたが、悪人として描かれるさじ加減はそんなにやりすぎに見えません。(公式自伝の内容がすごすぎて!)

 

LSDってあんなマイクロSDカードみたいな形状でビニール袋に入れてやり取りされてたんだ・・・とか、リード大学にティモシー・リアリーという人物がやって来た5年後の、当時のカウンター・カルチャーの雰囲気ってこんな感じだったんだ・・・というのが見えてとても興味深い映画でした。

(しつこいけど、ロバート・マーティン・フリードランド氏の存在をカットしていないところがナイスです)

 

 

2015年版:マイケル・ファスベンダー主演

 

プロダクトデザインが最高に洗練された、世界でいちばん時価総額の高いカルト企業ってこんな感じだったのよ! と教えてくれるような、「グルの自信とプレゼンへのこだわり」が存分に伝わってくる映画でした。

売上予測を行うマーケティング担当のジョアンナ氏との会話から社内外の状況がつかめる構図になっていて、父・スティーブ・ジョブズの人間らしい心変わりの瞬間を印象的に見せています。

 

基本的に室内の場面ばかりなのだけど、出入りする人の服装で時代感が見えたり、漫才師のような蝶ネクタイがダサくてなんかズレてる感じとか、自分の子だと認めようとしない娘とその母の服装が明らかにヒッピー的だったり、小道具による演出もおもしろくて。

挙動に原作にある要素が多くちりばめられていました。便器に足を突っ込んで洗うほか、しれっとヨガの太陽礼拝の序盤の挙動も登場したりして。

 

自尊心を傷つけられることに鋭敏すぎる人格を描きながら、発表された製品の広告手法の変遷も同時に見せていて、セリフの中に織り込まれた情報の再構築が秀逸です。

関わった人々の人間模様を見るとかなりしんどいのだけど、光を放ちながら恨みも買いまくって、流れ星のように一気に駆け抜けた人物史として、映画ならではのスピード感で見せてくれます。

このくらいグイグイ引っ張ってくれないと、おかずが多すぎて完食できません。

 

圧倒的にわくわくするプロダクトを世に送り出す求道者ではあったけれど、権威社会の中ではかなりズレた求道者で、ものすごい戦略家で、他者の精神を侵略していくのが上手すぎる教祖様。

こんなにおもしろい映画だとは知りませんでした。『スラムドッグ・ミリオネア』『トレイン・スポッティング』と同じ監督でした。そりゃおもしろいわけですよね。

会話劇の脚本が素晴らしい、おしゃれムービーでした。

 

 

現実歪曲空間の説明を補完し合う2作品

スティーブ・ジョブズ本人にとって絶対にできるはずのことが、他の人から見たときに「現実歪曲フィールド」と名付けられる。そのネーミング・センスとそれを共有できる組織そのものに、Apple の人々の有能さが見えておもしろくもある。

この感覚がないと残れない組織であったことがわかる映画として、2015年の映画は巧みな作りです。

 

さらに「本人にとって絶対にできるはずのこと」という回路のルーツとなるLSD体験からの無限世界を想像するのに、2013年の映画はかなり興味深い内容になっています。

 ”自分は特別な人間だと本人が思える子育て” をするのに、親の態度はどうあるべきかという視点で見たときに、この映画はほどよい描かれ方をしていると感じています。

公式の自伝を読むことで見えてくる、とてもアメリカ的な要素(日本との違い)がここに詰まっていると感じました。