うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

屋久島紀行 林芙美子 著

圧倒的にパワフルな自然環境とそのなかで暮らす人々を見る旅をしたときの、あのぐうの音も出ない感じをプロが書くとこうなるか! という、まあどうにも完璧な紀行文。読み手に全く負担をかけないまま、その映像を脳内にどんどん展開させる。画家みたい。
都会の人間が日本の大自然の中に居るという状況を、いちいち説明しない。それは固有名詞の使い方だけで伝わるのだからいちいち書かないというスマートさ。
裸足で暮らす人々を見て自分も裸足だったことがあるのだと回想してなんとも切ない気持ちになるところでは、東南アジアの田舎を旅するときに感じる、「わ、わしもな、20年前はその感じで暮らしておったの! だから懐かしくてこういうところに来ちゃうの!」という気持ちがいっきに解凍される。

林芙美子はすべてがシンプル。盛らないし、やりすぎない。でも存分にセンチメンタル。ここまで文章が研ぎ澄まされていると真似しようにもできないし、突っ込みの入れどころもない。同時代の作家の妬み嫉みをおおいに買ったのではないかと思う。とくに男性作家の。
この紀行文は、まったく性別を感じさせない。

 

屋久島紀行

屋久島紀行