昨年から読みたい読みたいどんどん読みたい、という具合で、わたしのなかでブームがなかなか終わらない。
うずうずしちゃって止まらないので、そのブームへわたしを引きずり込んだ友人を道づれに林芙美子記念館へ出かけてまいりました。
友人はひたすら古い映画を観まくっており、まえに水天宮前で待ち合わせをして出かけたときに「ここらへんの町は、谷崎潤一郎の小説によく出てくる」と話したら映画版「卍」の話をしてくれて、そのながれで「晩菊」や「浮雲」をすすめられ、わたしはまんまと林芙美子世界にハマったのでした。(読み始めたのは、作者の出生地の門司に行ってから)
大江戸線の中井駅から向かったのですが、絶対に迷わないようにしっかり案内されます。
この道中で渡る妙正寺川周辺が、いい感じで不気味でした。
曇りの日。なんかすごく、さみしさとせつなさと心細さと~♪ という感じがする。
この川沿いを歩きながらそれを友人に言ったら、「この川沿いのもう少し先に、映画『誰も知らない』の撮影で使われた場所があって、もとの事件は埼玉県なんだけど」という話をしてくれました。すごい。生き字引。いつか観ようと思いつつ怖くて観ていない映画だよそれ…。
それはさておき、記念館!
じゃん。着きました。坂を上ると入口があります。
この記念館のロゴがまたよくて。ちょっとふっくらした作者の雰囲気とよく似た、丸みのある昭和の美容室にありそうな感じ。「書体がフミフミしてる~」と謎のエキサイト・モードで坂を登ります。
実生活の玄関とは別のところが入口になっています。
やっぱりめちゃくちゃハイセンス!
林芙美子さんはもともと画家になりたかったのだそうで、旅行のメモひとつをみても、すごくかわいい! 横にイラストがついていたり、都市の距離がわかるように書かれた俯瞰図もいちいちキュート。
そこに所要時間がちょこっと書き添えられ、状況記憶の再現デッサン力がべらぼうに高い人であったことがよくわかりました。メモがうまい。
本を読んでいると、数字や固有名詞の使い方が絶妙なんですよね…。移動時の距離感や家の大きさがすーっと身体に入ってくるように書かれてる。文章とは思えないくらい。スペックを含んだ描写がうまい。
間取りもよく考えられていて、なんだかコミュニケーションのシナリオのある家だなと思いました。
玄関は大作家らしく、原稿を取りに来る人との距離が段階的にとれるようになっていて、女中さんの寝場所は外国の寝台特急を真似てデザインされたものでした。狭いのにめちゃくちゃ楽しい気分になる。
そんな凝った演出もありつつ、家族とくつろぐ空間は貧しかった頃の感覚を失わないためか、ものすごく質素で「時間ですよ」っぽい。かと思えばインド更紗をあしらったお部屋もあったりして。台所もお風呂もすごくよかったです。
お庭と外もすてき
お庭は家族や親しい人しか入らなかったのかなというレイアウトでした。
すてき。
それだけでなく、外にも出版社の人が一服しながら待てそうな歩き道がありました。
少し上から家を見下ろせるようになっているけれど、プライベートスペースは見えないつくり。
映像に感激/夫とお母さんもハイセンス
亡くなる4日前にラジオの公開収録があり、そのときの様子が映像で残っています。
これがね、ええこと言ってるの…。しかも、めちゃめちゃ優しい口調で、相手を緊張させないための気遣いにあふれてる。
気の強い成り上がり権力女みたいな情報の残され方をしているけれど、ほとんどが嫉妬じゃないかと思うほど。
「日本人は、すすがれなければだめだ」ということをおっしゃっていて、貧しい者や他国、他者を尊重する人権意識のことを言っているのではないかと解釈しながら聞きました。「浮雲」のなかでベトナム時代の富岡に喋らせていた考えがふと浮かぶ。わたしにはそんなふうに感じられました。
夫の手塚緑敏さん(画家)との写真もすごく素敵で、想像以上にハツラツとした男性。そして驚いたのは、お母さん(キクさん)のおしゃれさ。
なんだこのハイセンス家族は! という写真がありました。三人で談笑していのだけど、夫婦がなにか芸術家や評論家の先生と話していてるのかな…と思ってみていたら、それがキクさん。えええっ。となるほど素敵な人。
「放浪記」を読んでいるとお母さんをなんとなく商売の相棒や戦友のように思っている感じが伝わってくるのですが、「風琴と魚の町」の関係性が目に浮かぶような、納得の雰囲気でした。こんなすてきなお母さんが、育ち盛りで食いしん坊な頃の芙美子さんをボカスカ叩いていたかと思うと、コントみたいでおもしろい…。
はぁ…。じーん。
ものすごく、ものすごく、ますます惚れちゃう。夫のすばらしいサポートがあって活躍していたところなどは、なんだかマーガレット・サッチャーのよう。サッチャーのほうがうんと最近の人だけど。
ジャニーズ・グッズを買いに初めて原宿へやってきた地方の女子高生並の熱量です。
それにしてもこの家の周辺は、なんだかレトロでよいかんじ。
たまらんビルヂングや小商いの店に目が釘付け。帰りは中野まで歩いたのですが、このエリアは春夏秋冬歩きたい感じです。
古本屋が多いのも困る! ヤメテ。帰れなくなる。(これは新井薬師前駅ちかく)
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