うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

不倫 中野信子 著

題材は不倫。前半は「人体」後半は「社会」でまとまっていて、前半も後半も生存競争のシステムの中にある人間の生きかたの分解。
初代スケバン刑事の人が槍玉にあげられていたとき、わたしとその友人の間では同情というのかな、そういう雰囲気がありました。どこかで安心感を補強しなきゃあんなに全方位的に(仕事も家庭も子育ても)物事をやりこなすなんて大変すぎる…と。大丈夫だよがんばっているよ君はよくやっているよきっとうまくいくよと小出監督ブライアンのように言ってくれる信頼のおける人がいることでプレッシャーがデフォルト化した日々を乗り越えることができる、そういう心のメカニズムはアスリートだけのものじゃないよね、という話をしました。


この本ではさまざまな動物のつがいのありかたを紹介しながら話が進んでいきます。わたしは恋愛結婚の一夫一婦制に疑問を持つことがたまにあるので興味深く読みました。身近な人を見ればその信頼関係とチームワークにあこがれるのですが、一方でコーランを読むと一夫多妻制や婚姻時にきっちりいろいろ契約することに合理性を見るし、マヌ法典やカーマ・スートラを読むと身分の均衡や占いで相手を決める恋愛プロセスなしの結婚に合理性を感じます。
日本で流れが変わるのは、これから財産分与トラブルなど別の問題が増えてからになるのではないかな。少子化をフックに語られていた話がまったく別の文脈で語られていくことで、それを繰り返すことで変わっていくような気がします。この本でも触れられているけれど、妊娠が減って少子化になっているだけでなく産まないことで少子化している側面が見逃せない。その数字も本の中に書かれています。


不倫叩きとフリーライドを許さない心理について書かれた章では、お笑いタレントの親族の生活保護需給の件を思い出しました。そのあとは空海さんのエピソードを想起しながら読みました。既定の留学期間を経る前に師から「早く母国で教えを伝えよ」と言われる展開になって早く留学を終えて帰国したのだけれど、それをありがたがるどころか許さない人たちのバッシングを受け続けた空海さんのこと。成果の精度や内容よりも約束した年数を踏んだかを重要視する人がいる。鮮度は落ちてしまうだろうに。いまは情報も物資もすぐに海を越えるけれど、こういうショート・カットをありがたがらずに許さないことも、しくみが似ている気がします。


第4章にあるセロトニンオキシトシンの相互影響の話は、わたしがかねてより気になっていたことと関連があるように思いました。ちょっとヒいてしまうほどの陰謀論の拡散や、社会悪から弱い者を守るための主張の言葉やビジネス批判。「やさしくおだやかな世界」を語りたい人がときに極端な語調になるのはどうしてだろうと思うことが過去に何度かあり、その原理を説明されたかのように感じました。(不安を抑制するセロトニンが恒常的に不足→それと連動するオキシトシンを利用→排他感情でストレス解消をする)
著作のラインナップを見ると、この著者はどのテーマでもここに帰結する主張をしているように見えます。なかなか答えの出ないことが書かれている本だったけれど、日々「こういうことってなんで起こるのだろう」という題材をストックしている人は読みながら自分がどんなふうに社会をとらえているか(とらえることに難儀しているか)を確認できます。

不倫 (文春新書)

不倫 (文春新書)