うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ヨガの栄養の配りかた

先日ヨガクラスの前に話した「インドでよくあるQ&Aの返しはこういう感じなんです」という話がその場にいた人にとても印象的だったそうなので、さらに書きます。

その日はインドでの勉強旅行からお戻りになったかたがクラスに参加されていたので、そういうQ&Aの場に居合わせる経験もされているかと思い、こんな話をしました。

 

ヨガの哲学は記憶・印象の使いかたの主体について説くので、同じ情報に触れてもキャッチする主体それぞれの責任。「被害者意識」の文脈で利用される記憶も印象も「それは "あなたが" 保管しているもの」ということになります。

話をわかりやすくするためにちょっと極端な例にしますが、たとえばあなたが誰かに「自分にやさしく」という7文字の文字列を言ったとして、その言葉を受け取った人が自分の被害者意識の強化に利用して「こんなに虐げられているのだから、仕返しは是が非ですね!」と、返してきたとします。そのときに「それは "あなた" がやりたいことですね。わたしがいま言ったこととは関係なく」というような返答になります。でも日本人同士だと、ちょっとマイルドに薄めないと角が立ちそう。
ありそうな回答として「それは…どうなんでしょう」という逃げが思いつきますが、これまでわたしが会ってきたインドの先生たちがそういう回答をすることは想像できません。先生側がその思考の担い手を代行することも想像できないし、主体を自分に置いたときには「わたしには関係のない問題」と言うと思うのです。どさくさに紛れて渡される片棒を担ぐことをしない。

これがお寺だったら(仏教だったら)、「仕返しとは、報復行為をしたいということですか? あなたがそのようにみなして行う行為そのものも、行為としてひとつ悪徳を積むことになりますが」というような話しかたをするかもしれません。
11年前に瀬戸内寂聴さんの講演を聴きにいったとき、いくつかあった会場の人からのQ&Aのうち、4名のうち3名に対してはお坊さんスタイルで回答されていたのですが1名だけ 「被害者意識」への栄養として消化する思考が常習化していることがわかる文脈で質問した人がいました。寂聴さんは、そのかたに回答するときだけ完全にインド人になっていました。苦しみを乗り越えて次へ行こうとしている人への回答のしかたと、苦しみを培養してまだまだ味わい続けたい人への回答のしかたを分けていました。この会話の展開はいまでも鮮明に内容を覚えています。

 


 自分自身に栄養を配る行為をする主体

 


この主体が、なにをしようとしているか。
同じモルヒネも、身体の痛みを和らげるために使うのか、ドラッグとして摂取するかは主体の意識のありかた次第。身体の痛みも心の痛みも同じく記憶が紐づいていますが、主体の目的意識がちがいます。
ヨガの知識も同じで、被害者意識を培養する方向の味付けで調理されたものを好む人もいます。白魔術は主体のあり方しだいで黒魔術にも使える。

 

栄養を必要なところや全体に配るのではなく、自分の中の地下組織に率先して配るようなやり方をしていないか。これはわたしが自分で自分を見るときに「やってはいけない」と思って立ち返る考えかたです。なんか被害者意識が強くなるときって、あるんですよね。
近ごろ毎日のようにニュースで女性の人権を踏みにじられた事例の話題が出てくるのですが、そういう情報を目耳にしたときにも、自分なりにいちど分解してみます。思考の主体になる作業をスキップしないようにしています。そうすると「そもそも、自分に権利があるって思ったことなんて、あったっけ?」となったりする。同じような目に遭ってきても声をあ げない人は抑圧されているわけでも我慢しているわけでもなく、わたしみたいな人も少なくないんじゃないかな、なんて実は思っています。

 

太陽が照らす対象を選んでいるのではなく、そこに雲がかかったから対象が照らされない。インド式の心のとらえかたは、このようなもの。

自分の中にかかっている雲の様子はなかなか把握しずらいけれど、そのためにアーサナや瞑想があるのだと思っています。無敵になるためにやっているわけではなくて、空模様を見るためにやっている。続けていたら、少しは気象予報もできるかも。
わたしはヨガの練習を、そんな取り組みととらえています。

 

 


<おまけ>

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 これは、わたしの部屋で続々とメンバーチェンジを繰り返している再生野菜の大根の葉。太陽に当たってもう一度にょきにょき生えては、みそ汁の上でよい香りを放ちます。
いつも朝の太陽礼拝でアルダ・ウッターナーサナのときにチラッと目が合う位置にいます。「わしら大根としての生涯二度目じゃけどな、今日も咲いとるでぇ~、伸びとるでぇ~」と言ってくる。なんで西の発音なのかは知らない。(大根は千葉県産)

こういう存在が、自己を心の地下組織から引き上げてくれます。