うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

憤死 綿矢りさ 著


がーん、とくる。
あのとき、あの苛立ちをこんなふうに脳内で整理できていたら、自分がされて "なんとなく不快と感じたこと" をなぜか自分もやってみてやっぱりヘンだろと確認するような、そんなことをせずに人生を歩んでこられただろうと思う。あの確認のような行動は、やると他人に迷惑をかける。わたしのような愚か者にぴったりの小説だった。
あのいやーな感じを、なんでこんなに上手に書くかな…。びっくりする。帰国子女の元仕事仲間の、あの感じはまさにこうであった。

彼女は会話の形式を異国の上流社会から個人輸入していた。
(「憤死」より)

もうこの一行だけで、いろんな思い出が成仏。今後はふいに街なかで彼女に再会しても笑顔で対応できそうだ。コーティングされた中身はド儒教のくせに…と内心見下す気持ちを同時に分解しながら話すことができそうだ。


この短編集は全部ホラーだけど、ヘンタイ抜きのホラーでおもしろいのは久しぶり。
子どもの頃、いま自分におかしなことをしているこの大人のひとは、大人同士のときにどうしているのだろうと想像しながらも、子どもらしくモジモジして対応した。本心はべつにモジモジなんてしていなかった。そういう思い出のひとつやふたつ、あるでしょう? あるよね。でもそれ、文章化できないよね。たまにふと解凍されていや〜な気分になったりしない? わたしは、します。
大丈夫。この小説を読めば「あるー。あったあった」となって、なんかほっとするのです。ほっとさせてくれるホラーです。


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