うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

文章教室 金井美恵子 著


よくありそうな日常を過ごす登場人物の頭の中をのぞいてみると、おのおのが見たい世界だけを見るべく、こんな妄想を脳内で編集をしているのだよね。ということが小説で読める。おもしろい。
いかに日々の思いつきが脳内の文章に支配されているのか、いかに「なんか聞いたことのあるようなフレーズ」に思考を明け渡しているかということが、主人公の主婦の文章練習ノート『折々のおもい』と、雑誌や単行本からの引用を通じて示される。自分で考えているようでいて、考えた瞬間から外部情報の影響が顕現しているように感じる気持ち悪さが可視化されている。
ちょっとおもしろい構造になっていて、引用では表現できません。本編が引用だらけの設定なのです。


この本は職場で知り合った人から教えてもらいました。普段仕事の話しかしない人と好きな本の話になって、この作家が好きだといって薦めてくるって普段どんな本を好んで読んでいるやら(笑)。ずいぶんと濃いものをいきなりすすめてもらったものです。
主婦が教室へ通うという設定は、シンプルに思考の暇つぶしのはじまりを感じさせるのだけど、この「文章教室」はとにかく容赦ない。
ここへ通う主婦佐藤絵真の娘は母に向かって

「ああそうか、おかあさん、今いったみたいなことを書いて自分をなぐさめるわけね。主婦のマスターベーションね」
(文庫版46ページ/12)

と口にするし、
主婦に指導をする現役作家は脳内で

そうはっきりした印象を佐藤絵真に対して持っているわけではなく、更年期を絵にかいたような受講者たち一般の、とりとめのないいかにも平凡な顔立ちや、気取ったときにそうなる一オクターヴ高い調子の発声や、総じて厚塗りの傾向のあるファウンデーションや、ローズ・ピンクとかベージュといった類いのプリントのポリエステルのよそ行きなどと一緒に、絵真のことを思い出すだけだ。
(文庫版281ページ/52)

と描写する。
このように親族や他人に対して容赦のない人々が、自身の恋愛となると総じて色ボケし、無理な理論展開をする。妄想だらけ。これがけっこうきつい。
それぞれの妄想がくまなく気持ち悪く、人間関係としてつながっている。そしてその人たちの頭の中には、なんだかどこかで読んだようなフレーズが飛び交い、文学的で気持ちが悪い。男も女も、「かわいそう」を「かあいそう」という。これは語感的に気持ちが悪いのだけど、昔のドラマなどを見るとこんな喋り方が日常にあったようにも思う。


気持ちが悪いことがないと、文章なんて書こうと思わない。
ということか。