うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

姿勢保健均整法(身体均整法再増補改題) 手嶋昇 著

わりと日々参照したり持ち歩いたりする一冊。一般的な本ではないけれど、もし家に「家庭の医学」を常備しているならば、これもあってもいいかもねという感じの本です。
亀井進氏(1911-1975)が1956年に発表した手技療法「身体均整法」がベースになっています。亀井氏は野口晴哉氏(1911-1976)とシンクロする同時代の双璧、手技黎明期のツートップ的な存在の人。
以前『「硬い」の元素。「収縮残遺」』という日記にちらりと書きましたが、両者とも人の体型(体癖)を12種に分けた理論を持っており、11種と12種だけが少し違ってます。表現が違う。野口先生が文系なら亀井先生は理系。図にすると亀井先生すごい! という感じなのだけど、語られたときのジゴロ感は野口先生にはかないませんわ、といったような。
この本は、亀井先生のほか後継者のかたの教えや、現代のスポーツを通じた身体論などを含めて手嶋氏によって再構築されたすばらしい一冊。うちこのように、「あえて時代感のある単語や表現も含めて、昭和文体ごと楽しみたい」という趣味の人はこここからさらに古い教えを追っても楽しいでしょうけれども、現時点で出ているもののなかでは、このまとめは辞書的な一冊として最強に近いのではないかと思います。「坐位」と「座位」との表記の違いなどは、参照したところ(教えや時代)がちがうのかな? なんて思いながら、そこも楽しく読みました。


この本は動作の説明に「カーブを投げる時のように」のような野球の動きや陸上競技の動きがちょこっと差し込まれていて、そこが好きです。手嶋版アレンジですね。序盤をすぎるとガッツリ実践的な内容なので、初めて身体の勉強のために手に取るには濃すぎるかもしれません。
ここではおもに序盤と、あとはヨガベースな書き方でおもしろさが表現できそうなところを紹介します。

<17ページ 序章 より>
 身体均整法の創始者、亀井進氏は仏教の十二縁起の法から人体に12種類の体型と態性があることを考案すると共に、人間を機械工学的に考え、現代科学の粋を集めた船舶におきかえて説明している。常にバランスの取れた平衡性、物理的な外力に対する可動性、強弱性の必要性を強調している。

「12」はそこだったかぁ。いろいろ咀嚼する中で、ベースは「10」でもよかったんじゃないか、なんてことを思ったりしたことがあるので、この理由がおもしろかった。



以下は、手技の歴史の説明部分。
この部分は、国分壮 著「手技整形学/沿革」の抜粋も含めて書かれているところを箇条書きにします。

<19ページ 手技療法の沿革 より>

  • 歴史的にはインドにその源を発したものと言われている。
  • エジプトの科学者達は、キリスト前数年に古代エジプト人が、転位した椎骨を矯正して疾病を治療しつつあったことを報告している。
  • 古代ギリシャ時代初期の医術者が治療の手段として、手を用いた操作で手当をしていたことは、すでに明らかにされている。
  • 東洋における「婆羅門導引術」は、医療体操の原書的なものであり、エジプトからギリシャに伝わってヒポクラテス(BC377〜460)によって採りあげられている。
  • 15世紀の中頃フランスでは、すでにマッサージの治療上の効果を証明し、さらに各種の手技を学理的に説明している。


以下、アメリカの歴史にうつり

  • 1847年、アンドリュー・テーラー・スシール(Andrew Taylor Still)によってオステオパシィ(Osteopathy)という理学的療法が学問的に体系づけられた。
  • 1895年、ダニエル・ダヴィド・パーマー(Daniel David Palmar)によってカイロプラクティック(Chiropractic)という理学的脊髄矯正療法が創案された。
  • 1910年、スタンフォード大学教授、アルベイト・エブラム(Albeit Abram)がスポンデロテラピー(Spondylotherapy)という脊髄反射療法という反射療法の新しい分野を開拓した。

その他、フィジオテラピー(Physiotherapy=自然療法)、ナプラパシイ(Naprapathy=靭帯異常を正常にする手技療法)等々、種々の療法が研究され創案されている。

ヒポクラテスってそういうえば義務教育で習ったなぁ、なんてことをこの歳になって調べなおすことになったりするのが楽しい。中国を経由してきたヨガっぽい「婆羅門導引術」なんて記述にもわくわくしてしまう。


ここからすこし理論的なところなので予備知識がないとアレかもしれませんが、ヨガとは少し違うスタンスのようでありつつ、でも沖先生は思いっきりこの教えをベースにしているので、沖先生ファンには興味深いところでしょう。

<42ページ 運動系の基礎理論 骨格筋 より>
 筋肉の収縮には2つの種類があると考えられる。
(1)錐体路系の支配している収縮。
 大脳皮質による意識の命令により、行動が開始されるもの。
(2)錐体外路系の支配している収縮。
 原始人の持っている「感」のような作用のある神経の司るところの短縮で、一種の意識があって体の運動系だけが催睡運動を起こす無意識運動である。


(中略)


 骨格に対する身体均整法の考え方は、
(1)単なる運動系としてではなく、立位姿勢で各種の運動をする機構として考えている。
(2)骨格は安定性と機動性の器官である。安定性といっても機構上ばかりでなく、体の機能性の安定性をも含んでいる。それ故に内臓でも一姿勢の安定を保っているばかりでなく、体の内界外界の安定が狂った場合に、骨格の安定性が欠けてくる(相関関係)。
 たとえば、(以下、いくつかの例の中から抜粋)
肩胛骨の突出は腸骨の捻転と相関連している。肩胛骨の位置は視力と関係があり、上部頚椎や第1、2、3胸椎の圧痛と関係がある。

身体宇宙の全体最適ということなのですが、随意筋や不随意筋、呼吸器や臓器との関連性について仮説立てができるようになってくると、ここで抜粋した例に膝を打つ。ここでいう肩胛骨(肩甲骨)の位置は、全体に対する緯度経度的(地図的)な位置ではなく、「こうなっている状態」としての位置。
そしてたしかに「肩胛骨の突出」、たまに見るなぁと。自分のは後ろだから見られないのだけど、いつも一緒にヨガをする仲間に「いつのまにこのポーズでここがこんなに出るやり方になったんだっけ?」と思うことがあったりする。硬いとか柔らかいとか、痩せているとかずんぐりしているとかはまた別に、ある。
腸骨の捻転との関係と言われると、その場面設定(牛の顔のポーズ、弓のポーズ、捻るマッツェンドラなど)から、非常に納得。これは興味深い。

<70ページ 刺激の種類 より>
 均整法では運動は筋肉を鍛錬するために使うのではなくて、異常のある場所を元の通りに生きかえらすために、あるいは立派にするために使うのである。圧迫、振動、触擦、痛冷温刺激は、生理的には体表反射というのであるが、運動刺激は深部反射である。深部反射では関節の刺激によってその効果があらわれる。関節を動かすために種々の反射があらわれ、体の姿勢が保たれたり、形が保たれたり、平衡が維持されたりしている。この方法には自動運動法、他動運動法、抵抗運動法がある。

ヨガのようなことのために動けない父親に頼まれて、運動を促すマッサージをしたりするのだけど、何度かやっているうちに合わせて動けるようになってきた。深部反射に気づくのが少し楽しいようで、ツボ押しだと「イタタタタ!」と言ったりするのに、このやり方だと「うーん。押されているからではなくて、(言われたように動きを)あわせてみたらじわーっとくるんだよ」などと言う。
今日はお疲れぎみのヨガ友にも似たようなことをしたのだけど、やはり少しでも自分で動けるなら、一緒に動いてもらいながら共鳴するとスッキリ度も高い。



ここからはさらにヨギ専用の紹介でいきます。
以下は、「バッタのポーズ」の状態をイメージして読んでください。箇条書きにします。

<107ページ 股関節屈曲 より>

  • あげにくい側の卵巣が緊張している。
  • 大腰筋はL2・L3が支配し、卵巣、子宮、肺臓、盲腸が影響を受ける。
  • 腸腰筋もL2・L3が支配し、卵巣、大腸、小腸が影響を受ける。
  • 卵巣が緊張すると股関節も可動性を失ってくる(股関節が癒着したものは別)。
  • 卵巣を悪くすると、心臓も影響を受ける。
  • 左股関節の可動性を失うと心臓を悪くし、男性では高血圧症になる。
  • 足があがらないと肺活量が少なくなり、呼吸器を痛める。
  • 大腰筋と腸骨筋が緊張すると骨盤が開き、恥骨が低下し、下肢が回旋し、腰椎が垂直になり、腰部が硬化する。

最後の項目は、ウサギのポーズがうまくできない女子に共通する状況だったりするので、かなり興味深い。



以下は、「額を床につけるポーズ(プラサリータ・パドッターナーサナ的なもの)」の状態をイメージして読んでください。箇条書きにします。

<115ページ 膝関節屈曲 より>

  • 臀部に力の入らない人ほど女性ホルモンが少なくて、男性ホルモンが多いから、口やかましい。力の入る人はおとなしい。
  • 臀部を後につき出させ、膝を後にひく運動をさせると、男性ホルモンと女性ホルモンが中和される。イライラするのは脳下垂体、甲状腺ホルモンの影響からで、この操作で治る。

ものすごく謙虚で紳士っぽい振る舞いの男性でも、ここで見えちゃうことがある。ずばり上記のようなことです。口やかましい方面は、たまに「攻略的なヨガをする人」と言っているのと同じ。なんかつっぱった感じの人でも、ここがよくできていると「いい人なんだろうな」なんて思ってしまいます。



この本はどうやら古本しかない模様。
いくつか関連する本のリンクをつけておきます。

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