インド道場での集中稽古中、カマル先生が高音で言い放つお決まりのフレーズがいくつもあって、今でもメモを見直すことなく思い出せるくらいなのですが、そのなかでもこの「Find a balance!」というフレーズが仕事中にもよく心によみがえります。
仕事では、いろいろな人が関わりあって、様々な立場で意見します。主観的な人もいれば、客観的な人もいる。つどつど主観と客観を常に照らして話す人もいる。主観を「物言いたがり」に映らないようオブラートに包む人は、そのラッピングセンスもさまざまで、過剰な敬語で「やっつけ謙譲」が丸出し状態になって、逆に失礼なことになってしまっている人もいる。本当にさまざまです。
その仕事のオーナーに必要なのは、この
Find a balance!
なんですよね。
Yogi Kamal(って名刺に書いてあるの)の言葉は、本当にいろいろな瞬間によみがえってきます。アーサナ中にちょっと呼吸がちぢれてくると(ちぢれる、というのが自分的にしっくりいくんです)、
Breeeeeeeze!!!(息しれーーー!)
という声がよみがえってくるし、ちょっと心と体をつなぐ呼吸が乱れてきたときは
Enjoy your breeze.(呼吸を楽しむんだ!)
というやさしいバージョンの声がよみがえってくる。
いちばんしんどいのは、きっついポーズのときに随時襲ってくる
Ribs in!(肋骨閉じろーーー!)
これめっちゃきっつい。
最近この現象に「エア・カマル」という名前をつけました(笑)。
さて話を戻して、この「Find a balance! Enjoy your breeze!」は、ヨガの場面に限らず、これだけシンプルでありながら、何度もハッとさせられる。以前紹介した、内藤景代さんの「ヨガと冥想―入門から神秘体験へ」のなかに、わたしが日々仕事の場面で感じることを紐解いて表現してくれた箇所があったので、引用紹介します。この部分を読んでいる最中がまさに「エア・カマル」だったので、以前の紹介時には書かず、とっておいたのでした。
<228ページ 日常生活と呼吸 ── 風が吹いている より>
呼吸すなわち気息(いき)は、「息吹」とか「風」とよばれます。その場に吹いている風のような、目に見えないが、感じる呼吸の律動(リズム)です。
家風、校風、社風、国風は、それぞれの家庭、学校、社会、地方に流れている風=呼吸が、のんびり、さっぱり、ガツガツ…などで、ちがってきます。
それを「気風」とか気っ風、気性といいます。その中に生きているかぎり、空気と同じで、自然に当たり前ですが、別の集団、風土、文化に出会うと、異常に感じられたりします。早口すぎるとか、まじめすぎるとか。
私たちは、周囲に流れている"風"に無意識に同調し、支配され、流されています。呼吸を意識的にする、ということは、自覚的に生きることです。
「絶対の現れとしての、私」として、周囲に協調しながらも、主体的に自由に生きるには、まず、無意識的な呼吸を意識化することが大切です。
凝縮的(吸い込み型)か、拡大的(吐き出し型)か調べ、伸縮自在に、呼吸を、時と場合に応じて、自在に変えられるようにしたいものです。
組織も呼吸をして、バランスを探し続けるのがカルマ・ヨガなんですね。事業単位のカルマ・ヨガ。安定した呼吸、とぎれる呼吸、浅い呼吸、横隔膜がしなやかに可変する呼吸、折り返しで止まる呼吸、まったくホールドしない呼吸、さまざまです。
いままで、仕事する自分の状態でしか意識したことがなかったので、これは盲点。バランスっていうとすぐに「バランス・シート」を思いうかべてしまうけど、それもあるバランスの瞬間を切り取ったもの。
そして、上記の続き。
われわれ日本人に多いのは、凝縮型です。まじめで、思いつめやすく、気があがりやすい一途型で、息を吸って息をつめ、緊張しがちです。一所懸命なのに、報われることは少ない、かわいそうな人が多いのです。なぜなら、息苦しいので他人に嫌われやすいし、視野が狭いので好意が裏目に出やすい。
また気が上にあがり、のぼせて、下半身は冷え、いざというときに全力が出せず、失敗しやすくなっています。上虚下実の逆です。
一方、拡大型は、戦後の豊かな日本に生まれ、育った方たちに多いようです。しばられることを嫌い、気が晴れる楽しいことを求め、職業も転々とするとか。"笑い"は吐く息ですから、彼らはマンガが大好きです。
凝縮型は拡大型を「遊んでばかりいて…」と憎み、拡大型は凝縮型を「わからずや」と軽蔑しがちです。
「拡大型か?」と思うことは、バブル世代のちょっとお兄さんお姉さんに、たまに感じることがあります。わたしの周りにはあまり「わからずや」はいないから、わからない。
そして今年に入ってから25歳くらいのメンバーとも近しくお仕事をさせてもらうようになって、オバチャンはとっても学びが多い日々なんですけれども(笑)、彼らはまた独特のバランス感覚を持っていて、一緒にいるととても勉強になるんです。
パターン1)空気読みまくって、あざとくなる
パターン2)空気を読みながらも、本質に踏み込む仕事をするために、ときにはその空気を破るべきか悩みながら頑張っている
パターン3)「空気読んで、最低限のことはしましたから!」で、その後の努力は堂々と放棄できる図々しさを持つ
で、わたしは本当に幸せだなぁと思うのですが、この2に該当する後輩が身近にいて、自分にいろいろなことを省みさせてくれるんです。呼吸をしながら、バランスすることを放棄せず、たまにグラつきながらも腹でこらえる様子なんかは、ナタラージャ・アーサナの過程のよう。「そこでさりげなく吸って。そして落ち着いて、ゆっくり吐きながら、もうひとつ先へいけるよ」って思う。
この「呼吸をしながら」というのがこのヤングから学ぶところの重要なところで、今までに出会ってきた努力家で尊敬すべき先輩たちとは、ちょっと違うんです。
リゲイン世代の先輩たちには「燃える火」のようなパワーがあったのだけど、彼らには「風を読む。風と同調する」技術があるように思います。パワーよりも、フローのほうがイケます、みたいな感じ。
これから歳を重ねていくと、もっと若い世代とも接していくことになるのだけど、なにか自分の中で世代を超えても変換できる「理解言語」を持っておくと、いろいろな良し悪しの性質にニュートラルに向き合えるのだなぁ、と思いました。
強烈に毎日何度も刷り込まれた「Find a balance! Enjoy your breeze!」のフレーズがのちのちこんな風に身にしみてくるなんて、思ってもみなかったなぁ。