すっかりこの作家の世界にハマっています。
高校時代に『キッチン』や『つぐみ』を読んだ時のような、ああいう気持ちになることはもう一生ないものと思っていたけれど、それがおばさん版として再現できてしまう。なにこれ。奇妙な感覚。
屈託の焦点の定まらなさ、やさしい他人と話せているときの感覚、誰かを心配する気持ち。どれもいまの自分にしっかりと存在している。
いちいち傷つかなくていいようにシールドを張ったりコーティングをしたり……、ということをやってしまうのは、そうしていないと複数の役割を同時進行させることができないから。というのはやっぱり言い訳でしかない。
この物語は西川美和監督の『永い言い訳』のようで、子供から活力を引き出される様子がたまらない。
働きすぎて不摂生をしたり引きこもったりするようなことにならなくても、ときどき危うい。この小説には他人のせいにしたくない人しか出てこない。だから小さく気まずい場面や恥をかく日常がリアルでしんどいのだけど、根本的にやさしい。
今日が自分の誕生日だと言えない人が、わたしは好きだということに気がついた。これはちょっと意外な発見だった。