前に読んだ「嘆きの美女」がすごくおもしろかったので読んでみました。これもおもしろい!
「嘆きの美女」はネット社会を描く設定で、ひとつのサイトの運営者に執着する女性のマインドを痛快に再構成したものでした。
この「私にふさわしいホテル」は文壇ワールドの設定。実名の作家と「これ、あの人がモデルかな」と思わせる人物が登場する。日本の作家の小説をある程度読む人だったら、ニヤニヤできる。
なかでも、大御所のキャラクターが
不倫小説で有名になり、地味な大人のセックスを提示し、源氏物語ってそれ…(笑)
でも見た目がダンディでモテる設定なので、やっぱりおおむね五木寛之さん、という印象になる。この人物が、とにかくおちゃめ。角田光代さん、山本文緒さん、朝井リョウさんはご本人の設定のまま登場する。
この作家さんは、「設定」と「パロディ」のセンスが抜群。青春痛快少女漫画の勢いに、リアルな業界設定というバランスがいい。通勤中に明るい気分で読めるのだけど、その業界やマーケットの勉強にもなる。
セリフの中にちりばめられる、作家のボヤきが痛快。
<新人作家がベテラン作家にからむ場面でのセリフ>
「編集者一人に打ち明けた秘密は、翌日には出版界に知れ渡っているのは常識でしょ? あの人達、自分は会社の歯車なんかじゃない、なんでも知ってるんだぞ、って作家に知らしめたいあまり、聞けば大抵のことはしゃべるじゃん。ゴシップの保有数がなによりの勲章なのよ。大手の何人かと飲みに行ったら、ご親切に明美さんのお勤めしているお店から通ってるヨガ教室、奥様の行きつけの習い事までペラペラ話してくれたわよ。だめじゃーん。プライベートをぺらっぺら話しちゃさあ! ベテランのくせに不用心〜」
こわい(笑)。
<タレントが作家と話しているときの心理描写で>
作家という人種のこういったまどろっこしい例え話が、かれんは大の苦手だ。相手を絡め取り、自分のフィールドにおびき寄せ、穴に突き落とすような彼らの手口は、女性誌の対談などで何度もひっかかっている。
なんだろう。作家の対談に限らず「あるなぁ」と共感する、この感じ。
普遍的な感情を、ものすごくマンガチックな設定にさりげなく乗せてくる。シンプルな痛快さじゃなく、溜飲が下がるって話でもない。
痛がりながら、ボリボリとかさぶたを剥いでスッキリ! という感じ。痛さ直視コメディ。笑いながら痛がりたい読書家の人におすすめです。
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