うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

蜜柑 芥川龍之介 著


なんなんだ、この圧倒的なハイセンスっぷりは!
丁寧な文章、さりげなさ、心を溶かすストーリー。完璧。完璧すぎる。
超短編なのに、さまざまな感情が引き出される。

そりゃあ、漱石グルジも一目置くわな。
グルジはあばたとオナラ癖があったようだけど、芥川龍之介さんは歯がチャーミング
ふたりとも、すてき☆


夏目漱石の「坊ちゃん」に、こんな印象的な蜜柑の描写がある。

庭は十坪ほどの平庭で、これという植木もない。ただ一本の蜜柑があって、塀のそとから、目標(めじるし)になるほど高い。おれはうちへ帰ると、いつでもこの蜜柑を眺める。東京を出た事のないものには蜜柑の生(な)っているところはすこぶる珍らしいものだ。あの青い実がだんだん熟してきて、黄色になるんだろうが、定めて奇麗だろう。今でももう半分色の変ったのがある。婆さんに聞いてみると、すこぶる水気の多い、旨い蜜柑だそうだ。

田舎の人間を全般的に馬鹿にしている坊ちゃんが、東京にはない美しいものに目を向けている場面。蜜柑が生ると書いて「なる」と読ませる当て字は、芸の細かさが炸裂している「坊ちゃん」のなかでも細かすぎて沁みる。


芥川龍之介の「蜜柑」も、人の心にあかりを灯す役割をしています。ほっこりしながらキュンキュンくる。


▼Webで読めます(超短編です)


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蜜柑
蜜柑
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(2012-09-13)