うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ユダヤ人大富豪の教え 本田健 著


歯医者の待合室で読み始めて止まらなくなり、買って続きを読みました。
アメリカで知り合った老人との会話から、著者がその教えを学んでいくベスト・キッド形式の読み物。
この本は「どこまでも前向きじゃないとやっていけない」という世界で生きてきた人の哲学を、日本人好みの味付けで。という感じでまとまっていて、「売れるよね〜」と思ったけど、同じ日本人がいま「よくないことを倍にして返す」という物語に熱狂しているのはどうにも不思議な現象。学んでないのか?!(笑) 呪われるよ。知らんよわし。


などの日常のボヤキは末尾に続けるとして、わたしはユダヤ人の教えの中では、以下の要素が好きです。

  • 人間には支配欲と覇権欲がある。きりがない。それに当たるたびに折れてたら死ぬしかない。
  • 誰かを悪者にすると決められてしまったムードの中では、何を言ってもその言葉は攻撃材料に使用される。でもユーモアはそれを超える。


いずれもわたしの中での解釈要約なのだけど、ユダヤ人の教えは「ポジティブ」であることよりも「ポジティブにならざるを得ないくらい、人間のダークサイドに翻弄され、その黒さを知っている」という経験から生まれている。ここを掘り下げる内容の本は、手っ取り早く人生を前向きに生きるコツを得たい人にはうっとうしがられるのでカットしたほうが売れる。この本は、そこをわかったうえで、よく編集されていると思いました。


読んでみるとほんとうにうまくストーリーになってまとまっていて、日本の村社会ではこれを言葉のとおりに信じないほうがいいと思うこと(人脈至上主義っぽいとことか)もあったけど、よいことがたくさん書かれていました。なかでも、人間を性弱説で語る以下がよいです。今日の引用は両方ともミスター・ミヤギ的存在のメンター老師・ゲラーさんのことばです。

目標を設定するときに、人は大きな間違いを犯す。まず、自分がすべきだと思うことを目標にする。人間はすべきことをやれるほど、意思が強くできていない。(190ページ)

これは日本人特有のことなのかと思っていたけど、このストーリーのなかではアメリカ社会がベースで書かれているので、日本人の思考癖の話ではありませんでした。わたしはこれは本当に重要と思っています。
小中学校の教育で刷り込まれる「目標」という言葉の使い方に縛られていると、大人になっても「先生! ぼくここまでできたよ」「目標を達成したのね。えらいわねぇ〜」という会話で完結し、その外には親以外の誰にも喜びがないという状態になります。社会に出てこれを続けていていいわけがないということを、この本ではとてもまろやかに語られています。この「まろやか」ってのがポイントなのよねぇ〜。




もうひとつ、終盤にとてもよいことが書かれている箇所がありました。

 恩人にはね、三つのタイプがいることを知っておくといい。
 一人は君を心から応援してくれ、何かにつけて、ポジティブな言葉を投げかけてくれるタイプ。この人たちが恩人だとわかるのに、たいした知性は要らないだろう。
 そして二つ目のタイプは、先ほど言った、マイナスの恩人だ。君にネガティブなことを言って、いままで気づかなかったことを教えてくれる。また、本当にやる気があるかどうかを試してくれるのも、この人たちだ。このタイプの人たちを恩人だと見るには、少し知性が必要なのはさっき話したとおりだ。
 三つ目のタイプは、君が気づかないところで君を応援してくれている人たちだ、この人たちは、君の夢や情熱を察知し、君の知らないところで、君の活動を静かに支えてくれている。(250ページ)

インド哲学は残念なくらい心をドライに分解するので、たとえば一つ目の恩人のタイプだと、「心から」応援しているかどうかのところを掘り下げ、その心と行動に条件があることが詳述されてガックリきたりするのだけど、この書き方はまろやか。そのまろやかさに加えて、三つ目のタイプを語るところがすばらしい。わたしは二つ目のタイプの人が「本当にやる気があるかどうかを試してくれる」と書いてあるのがとてもよいと思いました。



疑心暗鬼について語る「第4の秘訣 思考と感情の力を知る」は、とてもよい章でした。ここは100%、インド哲学とぴったんこ。



「倍返し」とか「under control」という英語とか、この国ほんとに神に呪われちゃうよと思うことが多いこのごろだったので、こういう本がベストセラーになっていたことを知って、ホッとしつつ、少しあーあとも思いました。この本が売れることと「under control」って言っちゃうことは似たエネルギーと感じます。
この本自体は先にも書いたとおり、人間を性弱説で語り、誰かを悪者にしなくても済む "アイデア" を武器とする内容なので、とてもよい教えです。でもその味付けは、アメリカの子会社である日本カンパニーの社員としての幸せという領域を出ていない。というか、そこを濃く味付けされています。だから売れているのかな。
わたしはこの本とあわせて、ほかのユダヤの教えを読むことをおすすめします。(「頭がよくなるユダヤ人ジョーク集」「ユダヤ人の発想」は文章がやさしく、楽しく読めますよ)
売れている本を読むのって、勉強になりますね。