うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

ヨーガの極意 ― ヨーガスートラを体験するために 小山一夫 著

アーサナの解説をする本ではないので、いわゆる「ヨガに興味がわいてきたところ!」という初心者向きではないです。「ヨーガ・スートラ」「ハタ・ヨーガ・プラディーピカー」などを読んでからのほうがいいかも。
ヨガにまったく興味のない人の中でも、小山氏の「火の呼吸」の存在だけは知っている人が多いのが、格闘技好きの世界。うちこが一緒にプロレスを見に行く、会社仲間の同級生男子たちも知ってました(参考「西口プロレス」の回)。
その探究心のフォーカスのしどころ、方向性が見えてくると読みやすくなりますが、はじめは「どういう展開で解説が進むのだろう?」といった感じで読み進めました。
以前「インド・ヨガ教典」の感想に、ヒンズー教と輪廻の思想については、その背景を思うと現代の日本人ヨギとしてはおいそれとはうなずけない、ということを書いたのですが、その理由について、小山氏がこの本のなかに書いてくれています。

引用の流れで書いたほうがわかりやすいので、いきなりいきますが、この本の書かれ方には改行に特徴があります。意図があってのことと思うので、改行箇所をそのままにして引用します。

<3ページ 前書き より>
古代の科学ヨーガは
当初人間の潜在能力を発現させる精密な技術でした。
しかし宗教に取り込まれたために
現在に至るまでその本来の輝きを取り戻すことができずにいます。
私は、ヨーガを宗教から離別させ
信仰に基づくマントラ、儀式、戒律等をすべて排除し
中国の叡智とタントラを取り入れることで
独特なヨーガ・メソッドを開発しました。

これは、著者さんの前提コンセプト。


<70ページ ヨーガスートラとハタヨーガ・プラディーピガー より>
たとえば、ハタ・ヨーガ・プラディーピガーの第3章83から「ヴァジローシー・ムドラー」等の性交法の解説が続きますが
それはシャクティ派の行法であることの表れだと思います。
著者のスヴァートマラーは
ゴーラクシャ・ナータ(13世紀)の流れを汲む人物ですから
当然といえば当然のことです。

このムドラーの説明には、わたしも不思議な感じがしたのですが、その背景を説明してくれている本に初めて出会いました。


<70ページ ヨーガスートラとハタヨーガ・プラディーピガー より>
ヨーガと関係の深い仏教にも
このヨーガスートラと似た階梯があります。
天台大師智?(紀元538─597)の天台小止観には
次の五法を整えることの重要性が説かれています。
それは「飲食、睡眠、身、気息、心」の五つです。

天台小止観というのを、何度かほかの書物で目にしていましたが、このようなことが書かれている教えなのですね。


<114ページ 三昧(サマディ)について より>
ハタ・ヨーガ・プラディーピガーが16〜17世紀の著作である事から
密教ヨーガがその頃になってはじめて技術的に体系化された
と考えがちですが
所作タントラは2〜6世紀、行タントラは7世紀前半
瑜伽タントラは7〜8世紀、無上瑜伽タントラは8〜12世紀
に確立しているので、技術的な詳細は別として
密教ヨーガもかなり古い時期から行なわれていた
と考えるべきだと思います。

この本全般、お教典の類をざっくり「大昔」ととらえがちなところを、その前後関係をしっかり解説されているのがよいです。ヨーガをインドからの輸入健康法として学ぶのはやはりもったいないですね。日本人なら、お大師様の教えとともに、日本の歴史とあわせて学びたいところです。


<131ページ 輪廻思想とカースト制度 より>
世界広しといえども
約2800年前から輪廻思想があるのは
私の知る限りインドだけです。
それは社会システムの維持のために導入された
政治的な策略だった、といっても過言ではないでしょう。

この前後の流れもあるのですが、結論はここです。


<135ページ 輪廻思想とカースト制度 【参考】 より>
ラーマナ・マハーリシ師は
「輪廻転生は真実でしょうか?」という質問に対して
次のように答えています。
「無知が存在する限り、輪廻転生は存在する。本当は、輪廻転生などまったく存在しない。いまも、いままでも、そしてこれからも。これが真理である。」(「あるがままに」P336)
まさに明快な答えです。

ラーマナ・マハーリシ師はラマナ・マハルシ師とも記載されます。まだ読んだことがないのですが、ずっと気になっています。



わたしはクンダリーニ・ヨーガのメソッドに触れたことがないので、この本ははじめ「読みにくいのかな」、と思っていたのですが、時間軸でこのように説明された本はこれまでになく、ありがたい本でした。

ヨーガの極意―ヨーガスートラを体験するために
小山 一夫
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