うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

寂聴・猛の強く生きる心 梅原猛/瀬戸内寂聴 著

ここで何冊か感想を書いているお二人の対談ということで、即決。
1994年の対談本です。仏教に興味のある人には、とても楽しく読める一冊と思います。なにが面白いって、色恋データベースを土台に繰り広げられる仏教談義がすごい。そして、この二人のからみもなんだか面白い。瀬戸内氏はさておき、梅原氏はわたくし仏教講義の本などを読んでいたものですから、ものすごく「先生」のイメージだったのですが、けっこうふつうにオッサンで素敵です。こんなふうに色恋をかわいく語れるおじいさんは素敵です!

いくつか、ピックアップしてご紹介します。

<55ページ いくつになっても生と性 より>
瀬戸内:(中略)この話、したかな。宇野千代さんはこういうときに、たとえば、遠藤(周作)さんは? って言ったら、寝ない! 梅原さんは? 寝ない! 尾崎士郎(小説家)は? 寝た! って言うんですよね。もう全部、寝た、寝ないであの人は分類するんです。(中略)宇野さんの八十八くらいのときの話です。

宇野さんのについて本も最近感想を書きましたが、あわせて読むと面白いのがこの記事。
松岡正剛千夜一夜 より、「宇野千代『生きて行く私』」。ここに、"黒柳徹子は「徹子の部屋」に宇野千代を迎えたあと、「あたし、あんなに、寝た寝たと、まるで昼寝でもしたように、お話しになる方と、初めてお会いしましたわ」とけたたましく笑いながら言いつづけていた。それほど奔放なのである。" と。

<120ページ 女を泣かせられない男はダメ より>
瀬戸内:(中略)里見(?)さんはね、横に女性が座るでしょう。女だったら必ず手を握るんです。それはもう必ず。女だったら若くても婆さんでも何でも、そばへ来て手を握るの。何かこうエネルギーをもらうんでしょうね。
梅原:口だけじゃだめ?
瀬戸内:勝新(太郎)も、この間対談したら、「そしてねぇ」と言いながらもう私の手握ってて(笑)。
 要するに、女にもてないような男はダメよ。女にもてない、要するに女にとって魅力がないということは、その人に人間的魅力がないのよね。器量と違うよ。背が高いとか、顔がいいとかじゃなくってね。

わりとこういう話好きです。器量と色気はまた別物で。

<124ページ 寝ない恋が長続きする より>
瀬戸内:一遍は真っ正面からはやはり書けなかった(瀬戸内さんが書くという意味)ですよね。西行は真っ正面から書いてるんですよ。それから良寛は、良寛と貞心尼のあの恋を書いた。あれは、寝てるという説があるんですけど、私はプラトニックラブと思うのね。それから一遍と超一も。栗田勇(作家)さんは寝たって書いてるんですよ、『一遍上人 ─ 旅の思索者』の中で。私は、寝てないと言うの。
 それが出家した者としない者の違いですかね。そんなに簡単に寝られないの、出家したら。
梅原:出家せんでも寝られない。私でも寝てないんだもの(笑)。
瀬戸内:それはあなたが臆病だから(笑)。

仏教スナックみたいなことになってます(笑)。

<131ページ 人間関係を男女関係に置き換えてみる より>
瀬戸内:それで私は、西行は待賢門院の夫・鳥羽上皇ともできてたと思う。
梅原:だいたいそれ全部そうや。
瀬戸内:鳥羽上皇が死んだあと、お墓へ行って泣くんですよ。男泣きに。そこがちょっと異様なんです。

このへんの、昔はもっとすごかった系の話は、死ぬまでに一度は読み漁りたい領域です。

<177ページ 巡礼と写経を一生懸命にやる より>
瀬戸内:(巡礼は)とてもいいもんですよ。私は巡礼と写経を一生懸命やってるんですけどね。いろいろ口で言うより、体でしたほうがいいの。
梅原:それは人間というものは、僕はいわゆる巡礼の思想というのはたいへんすばらしいと思うんだ。やっぱり静では──なかなか人間は静で、座禅して、これで瞑想して解放されるというのは、ごくインテリに限る。
瀬戸内:そう、インテリですよ。
梅原:ところが、ああいうふうに動けば、やっぱりそこで変わってくる、人間が。だからやっぱり動だな。
 私は、一遍がえらいところはそこだと思いますね。動の宗教というものをつくった。念仏や座禅では静だ。動をつくったと、そう僕は言いたいんだけどね。

座して瞑想ひとすじなんて、インテリだ! というのが、いい。うちこも5教科はてんでダメでした!

<202ページ 三島文学の欠点 より>
梅原:三島(由紀夫)は僕と同年なんですわ。だけど僕はあんまり好きじゃなかったな。最後に三島、例の『豊穣の海』を書いたときに、あれはやっぱり唯識を書くと。それで、これが唯識かどうか梅原に見てほしいと言って送ってきたけど、こんなもん唯識じゃない。唯識には生まれ変わりの観念はないしね。生まれ変わり観念だって甘い。思想というものはやっぱり体につかにゃいかんのや。
 僕は坂口(安吾)が好きなのは、体についてるんだ。三島は、思想を書かなくちゃならんと、そのためには生まれ変わりを書かにゃいかん、そのために四人の人を設定せにゃいかんということなんですよ。その思想が肉体化されていない。

うちこは大学生の頃、三島由紀夫をたくさん読んでいるちょっとミステリアスな雰囲気の先輩が好きだったのですが、どれどれと読んでみるほどに「なんか、自然じゃない」と思うようになって、結局その人のことも「自然じゃないだけじゃん!」と思ってどうでもよくなったことがあったのですが、当時の判断はなかなかいい線いっていたのかも、と思いました(勝手に振り返り肯定! 笑)。


この対談を読んで、また読みたい本リストにいっぱいメモができてしまいました。このお二人、サイコーです。

寂聴・猛の強く生きる心 (講談社文庫)
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瀬戸内寂聴さんの他の本への感想ログは「本棚」に置いてあります。