昨年にリクルートの江副社長の本を読み、そのあと何冊か続けてセゾングループの堤社長の本を読み、そのあと京セラ・稲盛和夫さんの本を読み、稲盛さんの「生き方」という本にこの方のお名前が出てきて読みました。
これまでに読んだ社長さんたちの本と比べて、格別に色気があっておもしろい自伝。恋バナの折り込みかたが絶妙です。
しかも時代が時代。ラブレターを交わしているのがバレただけで退学になったりする、プラトニックが当たり前の時代です。
著者は退学は免れつつも女学校の生徒とラブレターを交わしていた事実が足を引っ張り、軍隊でいいグループに入れない。文通でだよ。文通よ!
その後は戦争体験が語られます。そこはとても壮絶な内容。
そこから「日本の女性の美しさ・大和撫子の価値を再建したい!」という流れで下着の事業に結びついていくきっかけも興味深く、戦後の女性があからさまにアメリカ軍人に媚びてふしだらになっていった様子への絶望が男性の視点で語られています。
そりゃそうです。だって「文通」でプレイボーイ扱いされるような価値観の中にいて、負けたらこれだもんね。でもそこでいじけたり幻滅するのではないところがかっこいい!!!
その後は、いまの時代だったら「ただし金持ちのイケメンに限る」というカッコ書きがつきそうなことを全部やっていて(元カノとおじさんになってから会っていたり)、それについても人情的に書かれています。
そして日本の男社会のビジネスの話は、思いっきり泥臭くて勉強になる。
年長者の率いる会社と合併をした時に社長の立場を渡して花を持たせたあと、やっぱりしっかりコケたので自分が専務から社長になるときのやり方とか、相手の顔に泥を塗らないことを最優先しています。
ビジネスの危機にウーマンリブが絡んでいた話も興味深く、わたしが生まれる前にあった「ノーブラ騒動」について知ることができました。
その時はこの社長が坊主頭になっていて、その写真が怖い(笑)。ものすごいハンサム社長なので、俳優が演じるヤクザ映画のような怖さ。
ワコールはもともと和江商事という名前で、お父様から引き継いだ会社(下着の会社ではない)の名前をとどめる、和江を留めるで「和江留」。それをカタカナにしたそうです。
その話も面白いのですが、それまでは「かずえさん」と呼ばれることもあったそう。
「ワコール」にした時は、女子社員にアンケートを取ったらその響きが好評だったのでそれに決めたそうです。
1ドル360円時代に海外へ視察へ行って、帰国後に初めて百貨店に試着室を設けてもらったという話も、今読むと「ええっ。それまで試着室って、なかったの?!」という驚きがありました。
この本を読むと、いわゆるお茶屋遊びも芸者遊びも本人の息抜きというよりはビジネスの人脈作りの場であったことがわかります。毎日午前様と書かれていても、この社長の語り口だとあまり嫌な感じがしません。家族はもちろん嫌だっただろうと思うのですが、こういう時代だったんだよなと、そんな気持ちで読みました。それで成功した社長だから本も出せるわけで。
この時代の社長の自伝は今みたいにあちこちから暴露話が晒される時代ではないので、社長の熱い想いや心の勢いをそのまま読み取りやすく、読んでいて楽しいです。多方面への配慮があり過ぎないのがいい。
世間で自然水が販売されるようになった頃に、だったら空気も売れるのではと思ってできたのが、いまも素敵な展示が開催されている青山スパイラル。あのビルがワコールのものであることも、この本を読んで初めて知りました。何度も行っているのに気がつきませんでした。