ページをめくるたびに溢れ出る自慢話と回想録。
その人が生きていた頃の印象が残っているうちに本人が書き残したものを読もうと思って読んだのだけど、この読みの苦しみをどう表していいものか。
友人からも「なぜそれを読むの」と聞かれました。わたしにはその返答のために引っ張り出す思考があって、実はこんな理由がありました。
唯物論的なのにスピリチュアルなことを言う人だったから
天罰発言もそうだったけど、わたしは都知事の頃の著者に ”この不思議な流れで推し進める力って、上の世代にある特徴だよな・・・” と感じていました。
コミュニケーションが好戦的で、自虐も謙遜もない。感情が多方面に向けて放射されていて、それが人によっては愛嬌にも見えたりする。毒々しくて強い太陽。ユーモアはただブラックなだけの、ジョークではない悪口。
就職する前に学生のうちに芥川賞を受賞して売れっ子作家になって、そもそも下の立場になったことがない人ならではの恐れのなさ。「私が有名になったのは芥川賞のおかげというより、逆に芥川賞こそが私のお陰で有名になったのだと自惚れてはいるが。」と書かれています。
さらに。
読んでみたら弟のほうがさらに何倍も毒々しい。
そこからの流れに大きな発見がありました。
唯物論的なのにスピリチュアル、の理由がわかった!
あの思考の源泉が、弟の起こした動物虐待とその報いと思われる奇病、そこからの霊能者への相談・供養・・・の流れにありました。ここを読んで一気に謎が解けました。
霊友会との関わりは政治家になる決心をして参議院の全国区に出るときに20万か30万の票を作るために仲介した人がきっかけだったそうです。その後、小谷開祖の修行体験を聞いているうちにさらに解明したくなって、著者自ら『巷の神々』という本を取材・執筆。
石原夫人は「気学」を信奉していて、この気学の師を霊友会の小谷開祖も信奉していたそうで、不可知な存在について自身のなかで認識を強くする経験を繰り返してきた、それがこの本を読むとわかります。
愛人にできた子を搔爬させてきたことも明かしながらの自伝なので、そのあとの供養や償いにも、自分なりのやりかたがあったのか。そこについては書かれていませんでした。
人間の想念の力を疑わない。
霊や不可知な存在もあると思っている。
来世や輪廻は信じない。
最後のほうで、このように書かれています。
この航海を通じて私は老いた身を憂いながら、さまざまなことを思い悩むに違いない。私は一応の仏教の信者だが、来世なるものをどうにも信じることが出来はしないのだ。
生きているのだから好きなことをやりたい。欲を満たしたい。守備として祟りを鎮める方法も知っておきたい。
わたしがこの世代の人にたまに感じる「唯物論的なのにスピリチュアル」のバランスが言語化されている。そう感じながら読みました。
── ここからはちょっと感情的に感想を書きます。
この本は華やかな交友関係をとともに明かされるエピソードに、受け止められないほどの自我がギガ盛りで、読む側もフード・ファイターのギャル曽根ちゃんになりきって食べる! みたいな勢いじゃないと読了できません。
愛人との恋愛を語る章がとんでもないことになっています。
性欲と紐づいた承認欲求を甘く見てはいけない。まるで中勘助が『犬』で描いていたような思考世界が現実社会で展開されたものを読むのは、わたしは初めてです。
ご丁寧に行為の様子まで回想し、何人もいた愛人のうち二人は処女であったと書き残し、45歳年下の(作品の)ファンである女性との関係を語っています。大女優に迫られた話も実名で残す徹底っぷり。
ホワイト・セージを焚いても焚いても足りない。
・・・自分が読まずに他人の感想を読んでいるだけで、しんどいですよね。
だけどもう少し続けさせて。もうちょっと付き合って!
わたしはこの人物が生きた時代の出来事のなかで、以下の3つが印象に残りました。
1. 役割と性格のマッチング
役割が性格を作ったのではなく、政治家のときには性格ができあがっていて、それが役割とマッチした。
最後のほうで、橋下氏の演説の迫力に感心させられたと言いながら「政治家は国民のふわっとした民意を鋭敏に汲み取らなくてはならない」という一節に不安を抱かされた、と書かれていたのが強く印象に残っています。
具体的には原発について意見が合わなかったようですが、自分の想念の力を使うのが政治家の仕事だと、そういう信条を持った人だったのじゃないかと、わたしはそんなふうに読みました。
2. 五島昇氏との繋がり
少し前にセゾングループの堤清二氏の本を何冊か読んだ時に、作家・三島由紀夫との交流が多く書かれていました。
この本には東急グループ総帥の五島昇氏のお話が多く出てきて、こちらも景気のいい話のオンパレード。流行作家周辺の事情がいまとは全く違っています。
こんなふうに作家が政治に参入していく流れって、いまじゃ考えられないことです。三島由紀夫のエッセイ風の文章(雑誌連載のもの)に石原慎太郎という名前がたまに出てきてずっと気になっていたのですが、この本を読むことで時代のムードをつかむことができました。
3. ボーイズクラブ参加の目覚めをコンパクトにうまく書いている
昭和のおじさんボーイズクラブの描きかたが興味深く、さらっと読みやすく書かれていました。
母親が眉をひそめる「エンカイ」なるものをずっと知らないままでいたけれど、ある日、会社の社員旅行で父親の会社の男たちの「エンカイ」なるものに兄弟で仲間入りさせてもらって、芸者が注いでくれた冷たいサイダーを飲んでその楽しさを感覚的に理解したと、幼少期のエピソードが前半に綴られていました。
少年の視点で距離を取るあたりに、ああそういえばこの人は小説家だったのだと、全部読んだあとに発見がありました。
・ ・ ・
最後は死への恐怖があまりにも素直に綴られており、気持ちを持っていかれます。
自分も妻も他界したあとに出版する予定で、夫人も一ヶ月後に亡くなられたため、すぐに出版された。そういう経緯だったそうです。
巻末に、著者は生前に校正ゲラのチェックを4回済ませていると刷られていました。
他人の言葉の引用も含めて短いフレーズの繰り出しかたに独特の癖があって、そういうところがこの時代の政治家として向いていたのか、ただマッチしただけなのか。
好戦的で露悪的なコミュニケーションをとる、高度成長期の日本人的スピリチュアリティが文字化されていました。